第3話 それは確かに希望の光だった。
この世界……『ロストタイム』と名付けた物語の舞台は、現代日本にほど近い、地球に近似した世界である。
よく見る小説投稿サイトでの乙女ゲーム転生では、中世ヨーロッパ的貴族社会に生まれ変わることが多い気がするが、そもそも乙女ゲームでは、中世ヨーロッパ的世界観の作品はそれほど多くない。前世では恐らく百本程度の乙女ゲームを所持していたが、中世ヨーロッパ的貴族社会の世界観を持った乙女ゲームは、その中では一、二本あったかないかくらいだった。
当然、悪役令嬢なる存在もあんまりいない。というか、悪役令嬢という概念自体が存在しないので、乙女ゲーマーに悪役令嬢などと言っても、字面から意味を把握してくれる以上の反応は得られない可能性が高いだろう。ライバル的な立ち位置に属する女の子や、主人公と仲良くしてくれる女の子などは存在するが、それらはまとめてサブキャラクターと呼ばれているだけだ。
乙女ゲームの基本は、プラスファンタジーだ。特定の時代背景をモデルに、ファンタジー要素、もしくはSF要素を足して形成する世界、もしくは、まるっとオリジナルのファンタジー世界を作っているものが多い。
明治時代や、大正時代など……。ちょっと変わった服装や言葉遣いが、世界の形成に役立つような時代が人気だったように思う。まあ、あくまでベースにしているだけで、実際の時代背景や服装がきちんと反映されているとは限らないのだけど。
失った記憶を取り戻すサスペンス乙女ゲームとか、現代日本ベースの割に服装の癖が強すぎて、アニメ化した時に一部に「ファッションモンスター」とか言われてたしね。
幸い、私が創造したのは、現代世界プラスファンタジーで仕上げた世界観だったおかげで、それほど違和感なく転生した世界になじむことができた。寧ろ、なじみ過ぎて最初普通に現代日本に再び生まれ落ちたのだとばかり思っていた。
しかし、無理やりねじ込んだファンタジー要素のせいで、道行く人たちの髪色や瞳の色がどういう遺伝子でそうなっているのか、全くわからないことになっていた。もっと簡潔に言うと、異様にカラフルだった。おかげで、比較的早い段階で、現代日本とは別の世界に生まれ変わったのだと理解したのだけれど。
どうりでぼんやりとした視界の中でも、なんかカラフルなわけだよ。
「それ髪の色だったんだ……」
って、気が付いた時には思わず口から出ちゃったよね。
「なんで金髪と赤髪の人の間に青髪の子供が生まれるんだ……しかも全員瞳の色も違うってどういうことなんだよ……」
そんな私の純粋な疑問に答えてくれる人は、いなかったわけなのだが。
というか、現代日本にファンタジー要素をねじ込んだせいで、地味な顔立ちの人には本当に地獄の世界になっている。可哀そうだなあとか他人事のように思っていた過去の自分を殴りたい。
すみません、あなた方の背負った業は、全て私によるものでした……。
それなのに、ちゃっかり自分は黒髪黒目の無難な感じに生まれてきてしまって、本当にごめん。
しかも正直言って、このファンタジー要素、物語の形成の上で、ほぼほぼ空気になってるんだよね。
特定のルート以外では、能力を使うこともほぼないし……マジでねじ込んだって言葉がぴったり。それを反映してか、日常生活の中でも、ほぼ出番がないし、正直ないのとそんなに変わらない。酷すぎる。お前もっとアイディアを練れよ。
辛い。この世の全ての業が自分自身のせいなの、本当に辛い。
けれど、この世の地獄の果てのような場所で、私は柊木悠真の言葉に光明を見た。思い出したのだ。
この世界、ワンチャン滅ぼせるぞ、と。
それでは皆さん、ご唱和あれ。さん、はい。
乙女ゲームは大体世界の危機と共にある。