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第30話 終わったな(私の人生が)。

 桐原陽太は、普段の愛想の良さが嘘みたいに、冷えた表情を浮かべていた。


「関係ない、だと?」


 桐原陽太を煽るように、親玉の左の口角が上がる。


「だって、そうでしょう。妖怪(オレたち)の問題です。人間(彼女たち)には関係がない」


 桐原陽太の言葉に、親玉が渇いた笑いをこぼした。それは、明らかな嘲笑だった。


「関係がないと言えないようにしたのは、お前の方だろう、陽太」


 その言葉と共に、広間の空気がずしりと重くなったような気がした。


 表情をこそぎ落とした親玉の声が、びりびりと空気をひりつかせる。


 うおお、これが圧ってやつか……。


 内心ちょっと感動をしながら、私は口の端をぺろりと舐めた。


「お前が人間と親しくなどしたから、こうする羽目になったのだ。化かして多少の会話をするだけなら兎も角、何かを買い与えたり、ましてや俺たちの住処まで教えてしまうなど……言語道断だ」


 威圧感を感じさせる声を聞きながら、内心で謝罪する。


 ごめん、ここどこか知らねえんだ。チートワープしただけだから、桐原陽太の情報漏洩じゃねえんだ。


 真顔でちらりと柊木悠真を見ると、何故かウインクをされた。いや、そういう空気じゃねえから、今。


「それは……。しかし、両親の残してくれた、オレの財産です。どう使おうと、口出しされる謂われはありません」

「何を言う。貴様を今日まで育ててきたのは、我々だ。その恩も忘れて人間と交わろうとするなど……。やはり、蛙の子は蛙か」


 蔑んだ眼差しが、桐原陽太を貫く。桐原陽太は、何かを言い返そうとして、けれども踏みとどまり、悔しそうに歯噛みした。


「貴様の父もそうだった。人間に興味を持ち、あろうことか愛した。あってはならぬことだ。その罪が……貴様にも刻まれていようとは。やはり、我々は正しかったのだ。だからあれほど、言い聞かせたと言うのに」


 嗚呼嫌だ、と親玉は言った。穢らわしい、と。


 私はその言葉を聞いて、俯いた。


 順番が逆なんだよなあ。


 桐原陽太罪を背負っているから人間に惹かれたわけじゃなくて、妖怪たちが杓子定規で見て、仲間はずれにするから人間と関わるしかなかったんだよなあ。


 ここは敢えて論破できるような矛盾をわざと作ったのだが、現実で話されると非常に突っ込みづらくて叶わない。


 なんか空気重いし、帰っていいか?


 そんな気持ちを込めて柊木悠真を見ると、首を横に振られた。ダメらしい。


「……どうやら、反省をしていないようだな」


 話しを聞いていない間に、何だか交渉は決裂したらしい。「そんな!」という桐原陽太の痛切な叫び声と、妖怪たちのはやし立てるようなざわめきが広間を支配する。


「そんなにその人間たちが大切だと言うのならば……。今後人間と関わる気が起きないように、目の前で殺してやろう」


 親玉のその言葉に、脳内で火花が弾けた様な、強烈な既視感に脳みそがぐらぐらと揺れた気がした。

 あ……。あ……。


 それ、「中途バッド」に行くときの台詞じゃないですかー!


 ところで、「中途バッド」という言葉に聞き馴染はあるだろうか。バッドエンドは大きく分けて二種類ある。それが、先ほどから言っている「中途バッド」と呼ばれる、物語の途中で唐突に終わりを迎えるバッドエンドと、エンディング部分で分かれることになる、一つの物語の終着点として描かれるバッドエンドだ。


 中途バッドは、あってもなくても変わらないような、急に主人公が死んだりする内容もあれば、気合の入った物もある。


 多種多様の殺され方をされ、死に方バリュエーション網羅してる? というものもあったり、こういう可能性もあるのだという悲しいIFを組み込んであったり、また本来攻略しているキャラではないキャラと結ばれたりなど、面白いバッドエンドは多種多様な嗜好の人間を満たしている。


 ちなみに私は、急に画面が暗転するタイプの中途バッドがあまり好きではない。フルコンプの為には見なければならないわりに、代り映えがしなくて、セーブアンドロードを駆使し攻略に使った時間が、無為に消費されているように感じるからだ。


 だというのに!


 何故か私は、自分があんまり好きではない感じの中途バッドエンドを、そこかしこに散らばらせていた!


 だってだって、何かボリュームが足りなくなるんじゃないかなあとか思ったら、エンド数増やして誤魔化すしかないかなって……てへ。


 ノリと勢いで制作したせいで、自分の好みの反映より「自分の中にある乙女ゲームあるある」を反映することに特化しているの、創作者としての誇りがなくて泣ける。


「そんな……! 待ってください、罰ならオレが受けますから! やめて! 二人には手を出さないで!」


 桐原陽太の絶叫をBGMにしながら、私はそっと涙を流す。


 ああ~思い出してきた。そうそう、桐原陽太の好感度によって、ヒロインが殺される前に能力の覚醒が起こるか否か分岐するんだよね。


 いや、好感度で変わるなそんなこと……。人の生死がかかってるんだから、仲良い友達のためでも覚醒しろよ……。お前のやる気がないだけじゃねえか。


 自分で作っておいてなんだが、なんてしょうもない中途バッドなんだ……。


 悲しくなっていると、すぐ隣の柊木悠真が、こっそりと囁いてきた。


「千代ちゃん……。大丈夫だから、安心してね。きっと、陽太のことを助けるし、キミに怪我なんて、絶対にさせないから」


 にこり、と昔と比べると随分と自然になった微笑みを見つめながら、私ははっとした。


 あ、そうか! 今もしかして、生命の危機か⁉


 自分の黒歴史に意識がいきすぎて、まったく現状を把握することができていなかった。


 こ、困るが⁉ 私がここで死んだら、誰がこの世界を滅ぼすと言うのか⁉


 いや、世界を滅ぼすのは私ではなく柊木悠真なのだが、その柊木悠真を世界の滅びまで誘導するのは私の役目なのだ。


 だから、こんなところで死ぬわけにはいかない……!


 私は顔を上げて、親玉を睨みつけた。


 ……名前何だっけ、こいつ。


 ネームドキャラだったことは間違いないのだ。だって、妖怪の親玉なんて重要なポジションのキャラなわけだし、桐原陽太ルートにおけるラスボスポジションだったわけなのだから。


 しかし残念ながら、全くと言っていい程記憶がない。名前を付けるのが苦手だったから、最後の最後まで親玉(仮)と呼んでいたせいだろうか。


 あ、何か、ここで殺されるのも仕方がないような気がしてきたなあ。


 親玉(仮)から目を逸らしながら思っていると、不意に、死角から伸びてきた腕に首を掴まれた。急にかかる圧迫感に、ぐうっと喉が鳴った。


 意識が遠のいていく。


 あ、これ死にますね。さようなら、私の黒歴史。来世では必ず消し去ってやるからな。


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