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第29話 絶対に勝ち取りたい(乙女ゲームを)。

「ボクも、孤独に死ぬことを望まれていた……。一緒だね」


 ふっと微笑む柊木悠真の顔を見て、私は心臓にダメージを負う。


 やべー! 聞き流していた方が幸せな話だった!


 ぐうっ! 私の設定が幼い子供たちを不幸にしている……!


 目の前で展開される不幸語り選手権の、全ての原因が自分であるという事実に、心臓から胃からあらゆる臓器が「もう許して」と悲鳴を上げている。


 そんな私の痛みを置き去りに、桐原陽太は柊木悠真の顔をじっと見つめて、噛み締めるように呟いた。


「一緒……オレと、悠真は、一緒……」


 柊木悠真は、そんな桐原陽太の様子ににこりと微笑んで、私の左手を包む手とは反対の手を、そっと桐原陽太の右手の上に乗せた。


 息を飲んだ桐原陽太が、じっと柊木悠真の瞳を見つめる。


「……陽太は、ボクの味方になってくれるって、言ってたでしょ」


 柊木悠真が、吐息を含んだ微かな声を上げる。


「……だからボクも、陽太の味方になる。一緒のボク達なら、一番強い二人になれるよね」

「悠真……。うん……ありがとう」


 瞳を涙で潤ませた桐原陽太が、何度も頷いた。


 その姿を見つめながら、私は「で、結局何の話だっけ」と思いを巡らせていた。


 やばい、何の話をしていたのか全く覚えてない。なんかあの、不幸話選手権が行われて私の胃がマッハだったことしか最早わからない。


 つまりあれでしょ、何か知らないけどオレ達組んだら最強コンビ☆みたいな、なんかそういう流れでしょ。どうしてそうなったのかわからないけど。え、なんでそうなった?


 とりあえず笑って誤魔化していると、感情にひと段落ついたらしい二人がこちらを向いた。


「それで、これからのことなんだけど……やっぱり、ちゃんと戦った方がいいと思うんだ」

「戦うって、そんなの、無茶だよ。ここは妖怪たちの本拠地なんだ。悠真が思っているよりずっと、敵の数は多いんだよ」


 そうだった。あわや妖怪大戦争になるところなんだった。


 現状を思い出した瞬間、頭の隅で何かが引っ掛かった。


 ん……? 妖怪大戦争……?


 そして私は気が付く。現在自分たちが置かれている状況が、桐原陽太ルートで起こるはずの出来事であるということを。


 そ、そうだったー! ヒロインと桐原陽太の親密度が高まると、それに気が付いた妖怪たちが桐原陽太を拘束するんだよね。そして、急に学校に来なくなった桐原陽太を心配して、ヒロインが捜索を開始する。なんやかんやで桐原陽太が自宅に軟禁されていることを知ったヒロインが、彼を助けに来て、けれど結局捕まってしまう。そんな流れだった。


 どうして桐原陽太ルートに私と柊木悠真が入っているんだ……?


 不可思議な事態に震えが止まらなくなるが、全ての原因が乙女ゲームだと思うと、何とかして勝ち取らなければならぬという熱い使命感が、体を突き動かす。


「……戦って、勝ち取ろう」


 よくわからねえが、この戦いによって得られると言うのなら、命を懸けるのもやぶさかではない。


 勝ち取るのだ、必ず。


 そう、この世で最も大切なもの……乙女ゲームを。


「流石千代ちゃん! そうだよね、今のままじゃダメだ。戦って、陽太の自由を勝ち取らなきゃ」


 いや、桐原陽太の自由はどうでもいいんだけれど。


「二人とも……」


 キラキラした瞳を向けられると、己の外道さに打ちひしがれるからやめてもらえないかな。


「それに、戦うって言っても、戦闘をしようってわけじゃないんだ。ボク達には、言葉がある。ボクと陽太が分かり合えたようには、いかないだろうけど。それでも、交渉はできるでしょう?」

「そっか。悠真の言う、『戦う』って言葉は、オレが妖怪のみんなと向き合わなきゃいけないって意味で言っていたんだ」


 そうなの……? 私はてっきり柊木悠真のチート能力で妖怪を死の淵に追い詰めるんだとばかり思っていたというのに、なんと純粋な物言いをするのだろうか。本当に私が生んだ(創造した)子供か?


「ふふん、ボク、『優しくて常識的』だから、ね!」


 ね! の言葉と共に、こちらを向いて柊木悠真がウインクをした。


 その姿を見て、私は気が付く。


 こ、コイツ……! 私の乙女ゲームの推しの言動を真似ているだけでは……?


 戦慄した。無垢な子供だと思っていたものが、得体の知れない化け物だった時のような衝撃を受けた。


 二次元キャラの言動を真似するの、痛すぎる! それに、過去の自分を見ているようでつらいから、やめてくれ!


 油断してはならない。やっぱりこいつらは写し鏡のなかの私自身なのだ。


 改めて気を引き締めていると、また複数人の足音が聞こえてきて、座敷牢の前にその姿を現した。でかい図体の妖怪たちは、黙って格子扉を開き、「出ろ」と簡潔に私たちに指示をした。


 大人しく、手枷に繋がれたロープを引かれるまま歩いていくと、大広間にたどり着いた。吹き抜けの大広間は、何かの道場かと思わせるほど広く、そこには老若男女、様々な姿をした妖怪たちの姿があった。


 上座に一人、ぽつりと座っている壮年の男が、ちらりと此方を見る。それに合わせて、私たちを引き連れていた妖怪たちが、頭を下げる。


 あれが親玉か。


 どうやって金銭を得ているのかはわからないが、妖怪というのは意外と羽振りが良いようだ。上等な着物を着ている。といっても、着物に関する知識などないから、上等そうだ、というだけなのだけれど。


「……座らせろ」


 親玉らしき妖怪の言葉に反応した妖怪たちが、私たちを横に並ばせて座らせる。


 腕を組みながら正座している親玉は、目を閉じていた。


 誰も何も言わない。


 ただカチコチとなる時計の針の音だけが、広間の中に響いていた。


「……二人は関係ないでしょう。放してください」


 シンとした空気の中、口火を切ったのは、桐原陽太の方だった。


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