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第28話 真面目な感じで聞くのやめて。

 急に座敷牢の中に現れた私たちに困惑する妖怪たちに、柊木悠真と仲良く手枷をはめられてはや数分。


 見張りに一人だけ残されて、他の連中はなにやら長に判断を仰ぎに行ったようだ。


「……どうする?」


 三人で輪になって座った状態で、私は二人に順番に視線を送った。


「というか、オレはまだ状況を掴めてないんだけど……。二人とも、どうやってここに?」


 眉を下げた桐原陽太が、困惑を隠せない様子で言う。


 それはそう。急に目の前に人間が二人現れたと思ったら、あっという間に見つかってあっという間に掴まっているのだから、無理もない話だ。


「えっと……。ボクの能力でこう……。それより、大事なのはこれからのことだよ!」


 前半をごにょごにょと言った後に、柊木悠真は力強く言い放つ。


 私が何かを誤魔化そうとしている時の態度にそっくりだ。なるほど一応、自分がとんでも行動をしたという自覚はあるようだ。


「そ、そうだ……。オレがどうにかお願いしてみるから、二人は家に帰りなよ」


 はっとした表情になった桐原陽太が、強い意志を灯した瞳を向ける。


 主要攻略キャラに相応しい瞳に、胃が刺激されるが、なんとか吐き気を抑え込んで、私は口を開く。


 今は吐いている場合じゃない。ほかならぬ、私の身の危険が迫っているからだ。まだこの世界を滅ぼせていないのに、こんなところで死んでたまるかよ。


「どうにか……なるの?」


 ならないだろう。


 私には確信があった。何故なら桐原陽太は同族……妖怪たちから迫害される身だからであり、その設定を作ったのは他でもないこの私だからである。


 馬鹿野郎、自分で自分の首を絞めているじゃないか。


 私が目を閉じ自責の念に駆られる横で、桐原陽太が言葉を詰まらせる。彼も言ったはいいものの、自分の願いが通るとは思っていないようだ。


「まあ、その辺はどうにでもなるよ。そんなことより、陽太のことだよ」


 サラリとチートを匂わせた柊木悠真の言葉に、視線を上げる。


 えっ、この手枷能力を抑制する的なことを桐原陽太が言ってたから、詰んだと思っていたんですが、もしかして全然そんなことないんです?


 私の期待の籠った視線をさらりと受け流して、柊木悠真は凪いだ表情で、真摯に桐原陽太と向き合っていた。


「陽太は、どうしてこんなところに閉じ込められてたの?」


 まっすぐに放たれた質問に、桐原陽太の表情が曇る。


「その……。両親の残してくれた、貯えがあるんだ。だから、そのお金で悠真にゲーム機を買ってあげようと思って……。オレの分と合わせて二つ、買ったんだ。だけど、それが見つかっちゃって……」


 なんて素晴らしい子なんだろう……。


 私は感激に打ち震えた。


 つまり桐原陽太は、乙女ゲームの為にこんな事態に陥っているというわけだ。だとすれば、話は百八十度変わってくる。主に私の心情が。


 助けなければ。この素晴らしい子供を助け、乙女ゲーマーの一にしなければならぬ。


 胸に熱い炎が灯るのを感じて、私は力強く頷いた。


「どうして、陽太が陽太の為に残されたお金を使って、閉じ込められるの?」

「それは……。オレに、えっと……同族の友達なんていないって、わかってるから……」

「同族」


 ピクリ、と柊木悠真が反応する。そして、優しく桐原陽太の手を掴むと、優しい声で告げた。


「実は、ここに来る前に、聞いちゃったんだ……。陽太が、人間じゃないって。妖怪なんだって」


 桐原陽太は、はっと顔を上げて、こちらに強い視線を向けた。


 そうですよね、この場で君の秘密を知っている人間なんて、私だけですもんね。当然情報の出所はバレますよね。


 そう思いながらも、私はそっと目を逸らした。


 その様子を見ていた桐原悠真が、慌てた様子で口を開く。


「千代ちゃんは悪くないんだ! その……心当たりがあって、ボクから聞いたんだ。千代ちゃんは、それに応えてくれただけ……」


 かばってもらってすまねえ。だが、私の様な人間にぽろぽろ機密情報を漏らす方にも問題があると思う。


 ゲスの思考を繰り広げる私を置いて、柊木悠真は、ぎゅっと強く桐原陽太の手を握る。


「でも、関係ないよ。ボクは、ボクのお兄ちゃんになってくれるって、そう言ってくれた陽太とだから、友達になりたいって思ったんだから」

「悠真……」


 まっすぐな柊木悠真の視線を受けて、桐原陽太の瞳が潤む。


 すげえ、道徳の教科書みてえなこと言うじゃん……。


「だから、安心して続きを聞かせて。妖怪の友達がいないことがわかっているって言うのは、どうして? それとこの状態に、何の関係があるの?」


 柊木悠真の言葉に、桐原陽太は滲んでいた涙を拭って答える。


「オレ、オレは……。光の能力が使えるんだ。でもそれは、妖怪の性質とは正反対の力で……。本来は持ちえないはずの力なんだ」

「それじゃあ、どうして陽太はその力を……?」

「それは……オレが、人間と妖怪のハーフだから……」


 そうして、桐原陽太の口から、私の考えた設定が語られていく。妖怪の異端児だった父のこと、そんな父が人間に恋をしたこと、そうして、自分が生まれたこと……。妖怪の、人間を恐怖に陥れる性質、それに反する能力、必然的に、自分が迫害されるようになったこと。


 私はその話を右から左に聞き流しながら、血反吐を吐きそうになっていた。


 おい、人様の考えた設定を真面目に語るの、やめてくれないか。


 しかし、実際にその言葉を口にすることはできない。何故なら、桐原陽太にとっては現実であり、柊木悠真は真剣にそれを聞いていたからだ。


 やめて……。シリアスな感じに聞かないで……。笑い飛ばしてもらった方が気が楽だよ……。


 唇を噛み締めて俯いていると、何を勘違いしたのか柊木悠真にそっと左手を握られた。


 何これ、なんの意図がある手? 慰め? 慰めなのか?


 やめろ、慰めるんじゃねえ。よくわからない癖に慰めるな。


 大荒れする胸中を知らずに、シンとした空気が流れる。


 誰か助けて、そうだ、マーチとか歌おうよ。みんなのために恐れないやつとか歌おうよ。私の為に恐れず世界を滅ぼして欲しいから替え歌にしてもいいか?


「……陽太は、ボクと一緒だったんだ……」


 話しがひと段落ついたころ、柊木悠真がポツリと呟いた。


 その言葉に、思わず顔を上げる。


 え、ごめん、マーチに夢中で聞き流しちゃった。もう一回言って。


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