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第27話 一人で終わってくれないか。

 どうやって会いに行くつもりなのか……そう尋ねようとしたのは、愚問だったらしい。


 柊木悠真がまた手のひらに闇を集めたと思ったら、今度は人ひとり通れるくらいの大きさにそれが広がって、すぐに手を取られた。


 一言も発する隙がないまま、私と柊木悠真は桐原陽太の目の前に立っていた。


 ……RPGの適役とかが使ったりする、便利ワープ……!


 柊木悠真は人類の敵ポジションの男なので、使えても何らおかしくはな……。いや、むしろ神出鬼没なんだから使えない方がおかしかったのか……?


 作者の知らないチート設定が目白押し過ぎて、何がおかしいのかが段々わからなくなってきてしまった。


「悠真……おねーちゃん⁉」


 当然、目の前に急に私たちが現れたのを見た桐原陽太は、大混乱である。


 そうそう、そういう常識的な反応、もっとちょうだい。


 混乱したまま私はうんうんと頷いた。


「陽太! ……何、ここ? ……牢屋……?」


 柊木悠真の言葉に周囲を見回してみると、どうやら本当に牢屋らしき場所に私たちはいるようだった。


 床は板張りになっており、簡易的な寝床と小さな机だけがそこにはあった。そして何より、廊下に面している箇所とは、格子で隔てられていたのだ。実物を見たことはないが、座敷牢というやつに相違ないだろう。


 冷静に現状を把握しようと努めているが、実のところ全くと言っていい程心が追い付いてきていない。困った。


 ええっと……。柊木悠真の便利ワープによってやって来た場所は、恐らく桐原陽太の住んでいる屋敷の中にある座敷牢だろう。


 桐原陽太の両親は、妖怪の父と人間の母親で、妖怪の父が先に亡くなり、人間の母と桐原陽太だけが残されることになる。


 しかし、先述した通りに本来妖怪にとって人間は、恐れられる必要のある生き物。関りあいになってはならぬ存在なのだ。


 しかし、桐原陽太の父は妖怪の中でも影響力の強い者であり、亡くなって尚もその存在感は残り続けていた。


 よって、人間とはいえその妻を排除してしまうのはならぬと主張する者も少なくあらず、かといって妖怪の存在を知った人間を野放しにするわけにもいかず、ほとほと困り果てた長は母子を屋敷内に軟禁することにした。


 つまりこの座敷牢こそが、幼少期の桐原陽太とその母が共に過ごしていた部屋なのだ。


 凄い。実際に目にすると凄まじい罪悪感が胃を襲ってくる。


 私、こんなところに母子を軟禁していたんだあ……。わあ……。


 思わずうつむいていると、驚愕を隠さない様子の桐原陽太が、慌てて私の腕をつかんだ。


「どうやってここに……いやそれより、隠れないと……!」


 掴まれた腕に視線を向けると、桐原陽太の両手に木製の手枷が付けられており、そのあまりの見慣れなさにぎょっとした。


 手枷、ナニゴト⁉


「陽太、それ、どうしたの?」


 柊木悠真がはっとして、両手で口元を覆う。


「これは、オレが力を使えないように、能力抑制用の手枷を……じゃなくて、見つかったらまずいんだ! どうやってここまで来たの、直ぐにここを出て!」


 条件反射のように返答しようとした言葉を自ら遮り、桐原陽太は慌てた様子で私と柊木悠真の背中を押す。


 そういえばそんな設定作ったな……。能力あったら脱走簡単じゃね? と思って……。だって、危機を作るためには能力を制限するパートがないといけないと思って、ほら。


 もごもごと胸の中でひとり言い訳を繰り広げている私など、お構いなしにぐいぐいと押される。


 だがしかし、ここまで自力で来たわけでもない。どうやって帰れと言うんだ。


 私は困り果てて、柊木悠真に視線を向けた。


 あの、人をこんな危険な場所にノータイムで連れてきた責任を取ってもらってもいいっすかね……。私も責任を取って世界を滅ぼすんで……。


 私の視線に気が付いているのかいないのか。柊木悠真は、悲し気に眉を下げている。


「そっか……。ボクにとって、家が牢獄でしかないように、陽太にとってもここは……」


 漏れ聞こえてきた声に、更に罪悪感を刺激されるが、桐原陽太の様子を見るに、なんか知らんがよくない状況らしい。


 いやまあ、軟禁というか監禁されてるもんな、明らかに。何かをやらかした後だよね、絶対。


 私は柊木悠真の服の裾をくいと引いて、小声で話しかける。


「ねえ、悠真……。何か、まずいんじゃ……」


 それがフラグになってしまったのだろうか。ドタドタドタ、という複数人の足音と共に、「おい、声がしたぞ!」「侵入者か?」などと言った声が遠くから聞こえてきた。


 ……何か、見つかってね? ……終わってね?


 死んだ目になりかけたが、幸い私には柊木悠真がいる。あの悪役必須のチートワープをしてもらえれば、安全にこの場から脱出することなど容易だ。


 そう思って、柊木悠真に視線を向けるけれど、柊木悠真はこちらを向いてなどいなかった。どうやったのか知らないが、桐原陽太の手枷を外していたのである。


 おい、そんな場合かよ!


 慌てて柊木悠真に駆け寄り、ぐいぐいと背中当たりの服を引っ張る。しかし、彼はどこ吹く風である。


「千代ちゃん、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」


 のほほんとした笑顔を向けられるばかりで、逃げ出そうと言う気配すらない。


 おい、何でだ! 普通に桐原陽太連れて脱出すりゃいいだろうが!


「に、逃げよう……!」


 声をかけても、柊木悠真はワープをしてはくれなかった。そればかりか、桐原陽太の手を握りながら立ち上がり、言い放った。


「いや……逃げてばっかりじゃ、何も変わらないよ。……戦おう」


 キラキラとした瞳を見つめながら、私は思った。


 馬鹿なの⁉ だから能力抑制される手枷つけられるんだって!


 しかし、そんな突っ込みを入れる間もなく、足音はついにすぐ近くに迫り……ガタイの良い大人が五、六人姿を現したのだった。


 終わった……。


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