第25話 プライバシーを保護したい。
「陽太探し、ボク、どうにかできるかもしれない」
柊木悠真は頬をうっすらと染めながら、どこか得意げに言い放った。
な、何だってー⁉
素で驚いてしまった。いや、闇の力(笑)を持っているとはいえ、柊木悠真はあくまで小学校に入りたての幼気な子供だ。それも、親の加護も殆ど期待できない。できることなど高が知れているだろう……そういう打算もあってこその、抵抗の諦めだったのだ。
しかし、どうにかできるなどとなったら、話が違ってくる。
焦りからこめかみを冷汗がつうっと流れ始めるも、何とか自身を落ち着かせる。
待て、待て。ステイ、ステイ。落ち着け……冷静になるのだ。柊木悠真は「どうにかできるかもしれない」と言っただけだ。つまり、確定事項ではないのだ。
「……どうやって?」
急激に乾いたせいで引き攣った喉で、どうにか言葉を吐き出す。すると、柊木悠真は「あのね」と一つ言葉を置いてから、語り始めた。
「ボクの力……ええっと、闇の力はね。世界を壊すことができるんだけど……。それだけじゃないんだ」
そうなのお⁉
あまりの衝撃に、素でビビり散らかしてしまった。
何故なら、闇の力(笑)に関しては、世界を滅ぼすことができるなんか凄い力、以上の設定など、何も決めてはいなかったからだ。
作者の知らない設定を出すの、やめてくれないか?
え、何、どういうことなの……。桐原陽太の家宅どこなの問題に続き、私の知らない設定が生えてきているんだが……?
首を傾げた瞬間に、気が付く。
もしかして、設定がガバ過ぎて、世界が勝手に整合性を創造してるってコト~⁉
あり得そうな話である。だって桐原陽太、スーパーとか来てたし、普通に人間的な生活してるのに家がなかったらおかしいもんね。
柊木悠真も、世界を滅ぼす力とかクソ曖昧な設定しかないけど、使える本人にもどういう能力なのかわからなかったら、流石に使えなくて世界滅ぼせないもんね。
それに、世界を滅ぼす力だけだと、黒幕として主人公たちと敵対した時、何もできないしね。そらそうだ。
納得できてしまった私は、思わず自分の両手に顔を埋めた。
馬鹿……! 私の馬鹿……!
そんなことにすら、考えが至らなかった、過去の私の馬鹿……!
「安心して貰えたみたいで、良かった」
柊木悠真が何か言っているようだけれど、自分の頭の悪さに絶望した私は、構わずうなだれる。
「それで、詳細なんだけど……。えっとね、これをこうして」
言いながら柊木悠真が体を動かしたらしく、僅かに衣擦れの音が響く。それに続いて、ウウン……という、空気が震える音がして、私ははっと顔を上げた。
見ると、柊木悠真は手のひらを下に向けた状態で右腕を前に向かって伸ばしており、その手の中には「闇」があった。
急な中二(笑)と思われるかもしれないが、一切の光を通さない、形のない黒が集まっていく様には、それ以外に表現のしようがなかった。
「それで、こう……」
柊木悠真の言葉に合わせるように、闇が薄く、円形に伸びていく。
「それから、こう……」
円形に伸びた闇がすっと起き上がり、ちょうど壁掛けの鏡のような状態で宙に浮いている……。
「そして、えーと……。『桐原陽太の姿を写せ』っと」
その言葉を合図に、闇の中に桐原陽太の姿が浮かび上がる。どうやら、体育座りをしているようだ。
「ね?」
柊木悠真が、にこにことこちらを見つめながら、首を傾げる。
あー、なるほどね。うんうん、こうやってすれば、確かに桐原陽太のことが探せちゃうね。
うんうん、盲点だったや。もっと早くこうするべきだったなあ。私ったら、馬鹿だなあ。
……じゃねーんだよ!
なんだそのチート能力! え、何、その黒い塊! 闇そのもの、だっていうのか……!(笑) いや笑えないんだが!
というか最早、闇とか関係ねーじゃねーか! 単純に「ボクの考えた最強の適役」みたいな能力になってるだけじゃねーか!
え、もしかしてこれ、私が逃亡した場合、すぐに見つかる……?
恐ろしい考えに、怖気が走る。
「その……えーと……プライベートの、侵害……?」
指さしながら言うと、柊木悠真は「ああ」と何故か輝く笑顔を浮かべた。
「えっとね、誰にでもできるわけじゃないんだ。その……ボクの力を打ち込んだ人間を映し出せるだけで……。ほら、GPSをつけた人を追跡できる………みたいな」
いや十分人権を侵害しているんだが? というか、今さらっと桐原陽太に力を打ち込んでいると自白したか?
恐ろしい男である。
「じゃあ、安心だね……(?)」
脳内に響き渡る警告音を無視して、私は柊木悠真に言葉を返す。現実逃避をしたともいう。
柊木悠真は、うんと当然のように頷くと、更に言葉を続けた。
「えっと、さっきも言ったGPSみたいに、現在地も映し出せるんだけど……」
サラッと聞き捨てならない言葉を吐いた気がするが、きっと気のせいだ。
よくよく考えるとどうして毎回ヒロインの前に都合よく現れるのか、その答えを用意されてしまった気がするが、きっと気のせいだ。
もう私は何も考えたくないから、気のせいということにしておこう。その方が精神の安寧上都合が良い。