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第20話 沼の底に沈め。

「ボク……もっと沢山、乙女ゲームがやりたいな……。すごく参考になるし……」


 何故か恒例となりつつある、柊木悠真と桐原陽太とのおやつ中のことだった。控えめな微笑みを浮かべながらそんなことを言い出した柊木悠真に、私は内心にちゃにちゃとした笑みが隠せなかった。


 いや、まあ。表情筋が死んでいるので、実際は口角が微かに上がった程度なんですけど。


「本当? 悠真が、気に入ってくれて……嬉しい……」


 万感の思いを込めた言葉に、向かいに腰を下ろしていた桐原陽太が、すいと顔を上げた。


「乙女ゲーム?」


 きょとん、とした桐原陽太の前で、私は自分にできる最大限優し気な表情を浮かべて、ゆっくりと頷いて見せる。


「大好き、なんだ……」


 人生どころか世界をまたいでも変わらぬこの思いは、愛と断言して差し支えないだろう。


 一説によると、布教に最大の効果をもたらすのは、『狂い』と『愛』である。より熱狂的に、より深く語られる愛にこそ、人は興味を抱く。


 つまりこれは……乙女ゲームの布教のチャンスなのである!


 そして桐原陽太も私の分身のような存在……つまり、潜在的な才能を秘めているはずだ。


 布教の対象は多ければ多い程に良い……何故なら、コンシューマー乙女ゲームは、正直に言ってしまうと、斜陽ジャンルだからである。


 コンシューマー乙女ゲームが栄華を誇っていたのは私が死ぬ十年ほど前……携帯用ゲーム機が多種多様に開発されていた時代に過ぎない。あの時代は良かった……毎月のように何本もの乙女ゲームが発売されて、だからこそ『当たり』にありつくのも簡単だった。数打ちゃ当たるのだ。


 しかし、スマホゲームの普及とともに、コンシューマーの乙女ゲームをメインジャンルとする乙女ゲーマーたちは、少しずつその姿を消していき……。必然、コンシューマー乙女ゲームの市場も、その規模を縮小せざるを得なくなっていったのだ。


 全盛期の頃は、人気作と言われるラインとされていた売り上げが、大体一万本程度だったと思う。しかし、私の死んだ頃には、一万本を売り上げれば相当なヒット作、といわれるようになっていたくらいだ。


 というか、三千本も売れない作品も、正直少なくないのだ。


 大好きなゲームが初動二千本程度で、FDどころかドラマCDすら発売されなかった悲しみを、私は絶対に忘れないだろう。


 一乙女ゲーマーとして、私は常に危機感を持ってきた。このままでは、コンシューマー乙女ゲームそのものの存続が危うくなってしまう。そんなのは嫌だ。私は一生コンシューマー乙女ゲームをプレイしたい。コンシューマー乙女ゲームからしか接種できない、脳を焼くような強烈な『()()』がそこにはあるのだ。


 この世界でも、元の世界と同じように、徐々に乙女ゲーム業界には縮小の兆しが見え始めている。なんでそう無駄に再現性が高いんだ。私の作った世界なら私の都合の良いようにあれ。


 でもよく考えてみても、この世界で私の都合の良いように事が運んだことなんてなかった。最悪だ。私っていったい何なんだ。不幸の星の元に生まれたとでもいうのか?


 まあ、つまりは何が言いたいのかというと……。


 私はきらりと目を光らせながら、桐原陽太の服の袖をぎゅっと引っ張りながら言った。


「陽太も、やってみる……?」


 一人でも多くの人間を沼に引きずり込まねばならぬのだ。


 それがたとえ、自分自身の分身に等しい存在だとしても。それが売り上げの一となるならば、なりふり構っていられないのだ。


 少なくとも、柊木悠真が世界を壊す高校生まで、この世界との付き合いは続くのだから。


 桐原陽太の様子を上目でうかがっていると、嬉しそうな表情を浮かべて、頷かれた。


「……! うん、おねーちゃんが好きなもの、オレも知りたい……!」


 よっしゃ、絶対に沼の底から這いあがれないようにしてやるからな。




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