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第16話 第二の刺客。

「うわぁ……」


 思わず声が出てしまった。それも仕方のないことだろう。


 幼稚園の年長組に上がった年の夏。私は母に連れられて、近所のスーパーにやって来ていた。食材を前に悩む母に断りをいれて、ちょっとした単独行動をさせてもらうことにした。普段から良い子にしているおかげか、私が遠くまで行ったり、何かまずいことをすることはないと判断されようだ。店内から出ないようにと言い含められはしたものの、特に止められはしなかった。有難い限りだが、それでいいのか、母。


 さて、たまの息抜きだ、と保護者の監視下から抜け出した私は、散歩感覚で店内を闊歩していた。そんな時だ。


 目の前に、膝を抱えて泣く幼児が現れた場合、貴方はどうしますか?


 これで、私が思わず声をあげてしまった現状について理解していただけたと思う。正直助けて欲しい。


 まあ、どうするべきかというと、大抵無視するか声をかけるかの二択だろう。私は正直見なかったことにしたい派だ。けれど、全く誰にも声をかけられる様子のない幼児をスルーするのは、流石に良心が咎めた。


 どうしてだよ、誰か大人の人が声をかけるべきではないんですか!


 私は大きくため息を吐いて、腹をくくる。


「……どうしたの」


 人目も憚らずにガン泣きをかましてくれている幼児の前にしゃがみこんで、声をかける。……シカトされてしまった。


 え、キミが返事してくれないと普通に恥ずかしいんですけど! 余計なお世話ってか、すみませんねえ! 私も体が大人だったら通報される云々言い訳をして声なんかかけないんだけどねえ! 今は通報される心配のない幼女ボディなもんでね! 一応アラサーだから子供を放置するのも後味悪いのよ!


 羞恥を感じながらも、私はもう一度幼児に声をかける。同時に、今度こそは返事をしてもらえるようにと、そっと腕に触れる。その瞬間、弾かれたように幼児は顔を上げた。顔が露わになったことで、私は幼児の顔面に視線が釘付けになった。


 はー……綺麗な顔だこと……。髪は金髪、瞳は緑……。相変わらず凄まじい色合いしてるけど、この顔面なら違和感もそれほど無い……。


 自身も幼児であるという立場をふんだんに利用して、妙に麗しい幼児の顔を、じっくり拝見する。

 髪は、絹糸のように滑らかな金で、天使の輪とかいうやつが、ナチュラルに出現している。明らかに触り心地が良さそうだ。


 青白い肌は、ともすれば人間らしくないほどに滑らかで美しく、スーパーの明るい照明を反射していることも相まってか、健康的ではなさそうな色合いに見えた。瞳はアクアグリーン。緑と青の中間のような色を透かしたような、澄んだ誠実な色をしている。


 顔立ちは、ビスクドールを思わせるような、彫りの深さと精巧さだ。睫毛が異様なほどに多いし長い。それも手伝って、人外じみた美貌、という言葉が、しっくりくるように感じた。


 日本人離れした彫りの深い造形と、不健康に見えるレベルで透き通った白い肌。そしてガラス玉のように澄んだ瞳……。


 見たことはないのにどこか既視感を覚える。その感覚は、初めて柊木悠真に会った時と同じ……。

 あ、これ攻略対象だ⁉


 気が付いた瞬間、体の向きを一八〇度変えてダッシュで逃走をしようと試みたのだが、腕を掴まれて阻まれてしまった。


 チクショー、流石スペック高いだけあって俊敏な動きだなあ! っていうか攻略対象ならそう言えよ、そうしたら絶対声なんかかけなかったのに!


 半泣きになりながら視線を向けると、瞳に涙を湛えた美少年が、バカ力で腕を掴みながら言った。


「オレ、迷子なんだ……」


 あ、そう! それで泣いてたんですか! 現在進行形で私の方が泣きたいんですけどね!


 しかし、涙目の美少年に腕を掴まれた幼女が泣き出しても、周囲の大人には二人丸ごと保護されるだけだろう。というか、この美少年が泣いていたのに誰も声をかけていなかったんだから、この世界の住民って薄情なのかもしれない。だとしたら二人で放置されるのかな。流石私の作った世界だ。


「……サービスカウンター、行く?」


 観念して声をかけると、美少年はこくりと頷いた。


「うん……連れてって、おねーちゃん」


 いや、お前の方が年上だけど……。


 内心そう思ったが、しかし、実際にそれを口に出すことはできなかった。何故なら、正真正銘これが初対面だからだ。


 初対面の人間に年齢を言い当てられる恐怖に、この泣きっ面美少年を晒すほどの度胸は、私にはなかった。前世の私なら通報待ったなしである。


 年下の子に、お姉さん呼びやおねーちゃん呼びをされる展開が好きなことが、ばれている気がして、私はうすら寒い思いをしたけどな。だからこいつは年下じゃないんだって言ってるだろ。


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