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第13話 私はまだ戦える。

 乙女ゲームの中には、個々のルートが面白いだけでなく、ゲーム一本としての物語の完成形を考えて制作されている作品も少なくない。全てのルートをプレイすることによって、物語の全体像が掴めるように作られているのだ。私の好きな作品は、そういったものが多かった。


 乙女ゲームという、周回を前提としたシステムの構造をうまく使った作品なんかに出会えた時は、興奮したものである。


 しかし、プレイするのと自分が作るのとでは、全く違った、という話である。前提として、乙女ゲームに出てくる攻略対象というのは、一人一人物凄く個性が強い。強いったら強い。何なら人間ですらない攻略対象もザラだ。


 宇宙人をはじめとして、魔王、堕天使、首無し騎士、魔獣といった規模の大きな個性付けから、執事、怪盗、マフィアなんかの職業個性付けなんかも多様である。変わったものだと、古代兵器のロボットに乗るパイロットなんかもいた。


 勿論私もそういった、個性豊かな攻略キャラを作ろうと意気込んでいた。


 でも、いざ自分でキャラを作ってみると、個性が弱すぎて、乙女ゲームの攻略対象としては、正直使えないキャラばかりが出来上がったのである。


 とんでもない落とし穴である。そもそも私の場合、普段読んでいることが多いジャンルが大衆文学だったこともあって、物語を作る際に、キャラクターの個性にそれほど重きを置いてこなかったのだ。そのせいで、いざ自分が、乙女ゲームの攻略対象としてのキャラクターを作ろうとすると、印象の薄い個性付けしかできなかった。


 焦った私は、とにかくキャラクターたちに属性を盛った。盛って、盛って、盛って、盛りまくった。今までにプレイしてきたゲームを思い出しながら、ひたすらに情報を追加しまくったのだ。


 そうして出来上がったのは、過去にプレイしたゲームのキャラ属性を合成したようなキャラクター達だった。


 ……結果、個々のルートも、それぞれ別のジャンルからキャラクターだけ連れてきたようなゲーム……。あやかしものなのか、異能力学園ものなのか、はたまたファンタジーものなのか……。それすらわからないジャンル闇鍋キメラ乙女ゲームが爆誕しちゃったんだよね!


 悪夢である。せめて作品一本通して内容を統一してほしい。


 キャラ設定表を前に、嫌な汗をかき続ける私。


 自分がキメラ乙女ゲームとかいう悪夢を作り出した、害悪乙女ゲーマーだという記憶は永遠に封印しておきたかった。


 ついでにいうと、ノートの後半に、黒く塗りつぶし、大きく禁と書かれたページを見つけてしまったのだが、これは見なかったことにした。


 表紙に既に書いてあるのに、なんでこの人(私)二重で禁止ページ作ってんだ……。


 胃痛と格闘すること、十五分。やっとお目当てのページを見つけた。ちなみにこの十五分は、ページ数が多いからではなく、単純に吐き気、頭痛、羞恥心による発熱によって進まず、水増しされた結果の時間だ。


「あった、柊木悠真のページ! 役に立ちそうな情報は……」


 息も絶え絶えになりながらも、世界の滅亡に向けたヒントを探す。すると、ある走り書きが目に入った。


『攻略すると、ヒロインと二人だけの世界を作ろうとして、世界を滅ぼそうとする』


 そ、そうだったー!


 私の中に、希望の光が差し込むのがわかった。


 柊木悠真のルートは、彼が今まで触れていなかった世界に触れ、このままで良いのだろうかと葛藤するのがメインのストーリーとなる。しかし、それと同時に進んでいくのが、柊木悠真のヤンデレ化なのだ。


 大まかな流れ以外、苦痛すぎて忘れていたけれど、そもそもこの黒歴史ノートのガン盛り設定の中でも、柊木悠真のところには『ヤンデレ化』と下に二重線まで引かれて書かれている。


 どうしてこんなことまで忘れてたんだろう……! いや、まあ、記憶から消そうとしてたんだから、当然といえば当然なんだけど。


 そもそも、自分が書いた長編小説の内容すら、綺麗に忘れ去れるタイプだったのだから、それも仕方のないことだとわかってほしい。ただでさえ忘れっぽいのに、忘れる努力すらしていたのだ。


 柊木悠真は、ヒロインを通して、自分の知らなかった世界の形を知っていく。それによって、彼の中に葛藤が生まれると同時に、自分にとっての世界を変えたヒロインに対して、酷く執着していくのである。


 ヤンデレ……というか、ヒロインに激重感情を抱いて病んでいく男。うーん、乙女ゲームの王道だよね!


 美しい世界の中を、ヒロインと共に生きていきたい気持ちと、彼女が誰にも奪われないように、閉じ込めておきたい気持ち。その相反する二つの感情が、ルートを進めていくと、どんどんと膨らんでいくのである。そして、選択肢の選び方によって、エンドが変わってくるというわけだ。


 ただのバッドエンドにしちゃうにはちょっと惜しいかなと思って、ラストの選択肢によってはハッピーエンドとメリーバッドエンドに分岐させることにしたんだよね。


 凝ったバッドエンドが人気を博している乙女ゲームもあるので、バッドエンドにはこだわりたかったのだ。正直もっとこだわるべき部分が沢山あったと思う。


 でもこれで、私が今後目指すべきは……メリバエンドだとわかった!


 柊木悠真は、何だかわからないけれど、自分の狭い世界以外にも、世界があるのだと知ってしまった。そんな現状では、単純なバッドエンドを目指すのは、残念ながら難しい。


 だが、私が柊木悠真の世界の見え方を変えるきっかけとなったせいで、どうにも奴は私に好意を抱いているようだ。幸い、柊木悠真が私に向けている好意は、生まれて初めてできたお友達に対するそれだ。


 ならば、その好意を逆手にとって、ヒロインに対する執着心を高め、メリバエンドを目指すしかないだろう。


 私を相手に恋愛劇を展開するのは、吐いてしまうからごめんこうむりたいが、ヒロインに対してであれば、多少は私の胃もマシである。うまいことけしかけられれば、あとは自然にヒロインに対して執着してくれるはずだ。


 ……つまりは、本番はヒロインと出会う高校生になってから、ということか……。


 うまくヒロインとの恋愛に誘導できるように、仲良くだけはしておくか!


 私は決して諦めない。この世界が消え去る、その瞬間までは!


 意気揚々と拳を突き上げた。気分は戦隊ヒーローである。


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