第110話 部活ものは大体みんな同じ部になるの、やめよう。
さて。こうなれば、私がするべきことはすでに決まっている。
そう、それは勿論……柊木悠真が読書研究部に所属するように誘導することである。そうすれば必然、柊木悠真と朝香蘭との接点は増えるし、好感度も稼げるに違いない。
私はこほんと咳払いをして、ちらりと柊木悠真に視線を送った。
「……いいね、読書研究部。……ね? 悠真」
「ん? うん。千代ちゃんがそう言うなら、そうなんだと思うよ」
キラキラとした瞳を細めながら、柊木悠真が頷いた。
なんだか子供扱いをされているような気がするが、そんなことは大した問題じゃない。
「……悠真、どう?」
「え? どうって、どういうこと?」
意味がわからない、とでも言いたげに首を傾げる柊木悠真に、私は歯噛みした。
文脈からわかるだろ! 読書研究部に入れって言ってるんだよ!
「悠真、読書、好き……だよね?」
「ああ、そっか。ボクが本を好きだから、おすすめしてくれたんだね!」
「……うん」
「千代ちゃんは、ボクのことをよくわかってくれてるんだね……! でも、うーん、どうかな」
なんだか気乗りしない様子の柊木悠真に、今度は私の方が首を傾げる。
一体何が不満だと言うのだろうか。
「ボク、千代ちゃんと同じ部活に入ろうと思ってたんだ」
なんて恐ろしいことを言うんだ、こいつは。
一瞬で全身の鳥肌が立った。
ただでさえ、毎日のように付き纏われて辟易しているというのに、この後に及んで部活動まで同じになろうとしているだなんて、冗談じゃない。
私にだってプライバシーはあるんですよ!
私が恐れ慄いている横で、朝香蘭が口を開いた。
「ええ、せっかく新入部員が確保できると思ったのに……! ねえ、橘さん、もしよかったら、橘さんも読書研究部に入らない……?」
かなりストレートな勧誘だ。
正直なことを言うと、嫌だ。これ以上柊木悠真との活動時間を増やすだなんて、正気の沙汰とは思えない。
……しかし、柊木悠真は、私と同じ部に所属する、と言ったのだ。
それはつまり、私が読書研究部以外に入ろうとも、得られる結果は、別の部についてくる柊木悠真と、朝香蘭だけが残る読書研究部であり……。結局、私が選べる選択肢は、たった二つ。
読書研究部に入り、柊木悠真と朝香蘭を同じ部活に所属させるか、読書研究部に入らず、ただ柊木悠真につきまとわられるか……。
こんなの実質一択じゃねえか!
私は血涙をのんで、一度大きく頷いた。
「……入る、読書研究部」
「それじゃあボクも入ろうかな。あ、朝香さんもよろしく」
「やったー! 新入部員二人もゲットしちゃうなんて! 叔父さんに褒められちゃうかも!」
ニコニコとする二人を横目に、私は受け入れ難い現実から目を逸らして、天井を見上げていた。
あ、シミ。
放課後。別のクラスの桐原陽太と水瀬彗斗と蓮実玲児と、何故か合流することになっていた。本当に何で?
ガキじゃあるまいし、別々に帰ればいいだろ……。
そう思う私の手を引いて、柊木悠真に強制連行されてしまった。私のボディが貧弱すぎるのと、柊木悠真の力が強すぎるのとで、逃げ出せる気は一ミリもしなかった。
攻略対称たちは、他の生徒たちから遠巻きにされていた。
改めて客観的に見ると、他の生徒たちとは、明らかに作画が違う。あまりにも目立つ集団だったので、正直私も近寄りたくなかった。
しかし柊木悠真には、全くない感覚だったようで、当然のように合流を果たし、読書研究部に所属することになった旨を早口で語った。
「ちぃちゃんと悠真が入るなら、オレも読書研究部に入る」
「ふむ、俺もちょうどどこに所属するか考えていたところだ。候補に入れておこう」
「うげェ、お前らよく部活になんか入ろうと思うよなァ」
三者三様の反応が返ってきたが、私はすでにうんざりしていた。
桐原陽太が即答で所属を表明したせいだった。
「……陽太、もう少し、よく……考えよう?」
「よく考えた結果だよ」
さりげなく考えを改めさせようとしてみたが、全く聞く耳を持たなかった。
何でこいつら、人の話を聞かないんだよ。え、お前が聞いてないから? ……はは、耳が痛えや。
「陽太も一緒なら、部活がもっと楽しくなりそうだね」
そんな私の気持ちなど知らずに、柊木悠真が嬉しそうにニコニコとしている。
「せっかくなら、彗斗くんと玲児くんも同じ部に入ろうよ! 絶対に楽しいよ」
「……悠真がそこまで言うなら」
「本当、彗斗くん。やったー! じゃあ、あとは玲児くんだけだね?」
「はァ? 俺が部活になんか入るかよ。だりィな」
「そこを何とか! 読書研究部って、すごくゆるい部活動なんだって。放課後に集まって読書したり、お茶しながら本の話するのがメインらしいし」
「あァ? ……確かに、適当に時間潰す場所に使えんのは、悪くねェな」
「でしょ、でしょ?」
恐ろしい速度で、柊木悠真が他の二人の勧誘に成功しようとしている……。
人がちょっと絶望している隙に、どうしてそんなことができるんですか? もしかしてこいつ、本当に悪魔なんじゃ……。
まあ、その悪魔を生み出したのは、私なんですけどね。はは。




