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第103話 大団円ルートって実際気まずそう。

「それにしても、ちぃちゃん、元気になって良かった。倒れたって聞いた時は、オレの方が死んじゃうんじゃないかってくらい、動悸がしたよ」


 第三者になっているところに急に話を振られ、私は曖昧に微笑み返す。


 馬鹿野郎、その話題をやっとかわしたところだったのに、掘り返すんじゃねえ。


「本当に! ボク、千代ちゃんにもし何かあったら、死んじゃうところだったよ」


 アハハ、と声は明るいのに、柊木悠真の目はどこまでも本気を感じさせてゾッとした。


 アレ、もしかしてこの人、本気で言ってます⁉


 柊木悠真はルートに入るとヤンデレ化するタイプの男なので、ちょっとした冗談が冗談に聞こえない時がある。……冗談だよね?


「あはは、悠真ったら、大げさだなあ。まあ、気持ちはわかるけど。……痛い程ね」


 倒置法――! その倒置法は、不穏の影を感じさせますね!


 私はゴリゴリと感じ始めた嫌な予感から目を逸らそうと、彼らの顔から視線を外した。


 すると、タイミングの良いことに前方に蓮実玲児と水瀬慧斗の姿が見えて、私は大声で彼らを呼んだ……つもりだったが、すっかり脆弱になってしまった喉では、彼らに声が届かなかったようである。


 そんな私に気が付いた柊木悠真と桐原陽太の声で、やっと二人はこちらに気が付いたようだ。


「うげェ……お前ら朝っぱらから元気だな……」


 朝から笑顔を振りまく柊木悠真と桐原陽太に対して、蓮実玲児は心底嫌そうに舌を出した。もうこれに関しては、人種が違うとしか言えないだろう。


「お前……朝から喧嘩をしていたくせに、どの口がそれを言うんだ……」


 しかし、呆れた表情の水瀬慧斗によって、蓮実玲児も十分すぎるほど朝からハイテンションであったことが明らかになった。


 低血圧気味の私からすると、どうすれば朝からそんなに激しく動き回ろうという気になるのか、甚だ疑問である。


 よくそれで遅刻しなかったな……。


 そう思った私に気が付いたのだろうか。


「たまたま俺が通りかかったから、翠斗も参戦して片づけた」


 水瀬慧斗はさらっと言っているが、やべえ男とやべえ男の共闘である。


 シナリオ内ではほとんど空気だし、実際「個性の一部」として扱われている程度のものである能力も、こいつらの場合は使い方がえげつない。


 水瀬翠斗が小さな水の塊を、人の鼻と口の周りにまとわりつかせて人を窒息させかけた時は、本当にドン引きしてしまった。こいついつか捕まるなと思った。


 私のガバガバ設定のせいで、この世界、強い能力持ってても特に規制とか制限がないから、余計に恐ろしいんだよな……。誰か疑問に思わないのだろうか。思わないんだろうな。私のオツムを超えられない世界だもんな……。


「玲児、また喧嘩してたの? 暴力は何も生まないって言ってるじゃないか」

「まーた陽太の説教かよ。うるせェな。別に何か産もうと思って喧嘩してるワケじゃねェっつの。俺は気持ちいいからやってるだけ」

「だから、それが良くないって言っているんだってば。もっと他にいくらでも楽しいことがあるのに」


 妖怪が人の道を説き、人間が外道を素でいってるの、聞くたびに思うけどおかしいよな。


「まあ、陽太が言うことは最もなんだが」


 こんこんと説教を始めた桐原陽太の前に、水瀬慧斗が割って入る。


「だが、人は正しいだけでは生きられない側面があるのも事実だ。そうは思わないか?」

「それは……そうかもしれないけど」

「だろう? 暴力は正しいことではないと俺も理解している。けれど、それによって救われた一面があるのも確かなんだ。これは俺や玲児が、今日まで生きてくるのに懸命だったからこその弊害だと思っている。だから……少しずつ、俺たちが変わっていけるように、お前も手を貸してくれないか」

「慧斗……。そうだよな、二人も苦労してきたんだもんな……オレ、軽率な口出ししてごめん……。オレにできることなら、いくらでも手伝うから……!」


 桐原陽太が感激したように瞳を輝かせているが……その横でこっそり水瀬慧斗がサムズアップしており、蓮実玲児がそれに頷いて返している。


 ま、丸め込まれている……! そして説教から話を逸らされている……!


 蓮実玲児と水瀬慧斗は、何度か一緒に暴力沙汰に巻き込まれているうちに、悪友のような関係になってしまったらしく。今のように暴力反対な優等生の桐原陽太に説教を食らうと、口が回る水瀬慧斗がそれとなく意識を逸らして話をうやむやにしてしまう事態が起こっているのだ。


 桐原陽太は割といい性格をしてはいるのだが、根っこが善良すぎて妖怪社会から弾き出された男だ。人情に訴えるような物言いをされると、案外簡単に騙されてくれるのである。


「陽太って本当……参考になるなあ」


 隣から聞こえてくる柊木悠真の言葉が気にかかりはするが、平和なひと時だと言っていいだろう。


「あ、皆今日一緒じゃん、おはよー!」


 背後から元気な声が聞こえて、次の瞬間背後からタックルを食らって、私はその場に倒れそうになった。柊木悠真に「危ない!」と抱えられなければ、今頃私は道路と熱いキスを交わしていただろう。


 本当に命にかかわるので、やめてもらいたい。


「ナナくん、気を付けないと!」


 頬を膨らませた柊木悠真が、私を顔面から地面にめり込ませかけた犯人……百田七緒に注意する。


「はーい、ごめんなさあい」


 適当な謝罪だけして、百田七緒は柊木悠真がいるのとは反対側……桐原陽太と私の間に無理やり入り込んできた。


「わ、ちょっとナナ。どうして割り込むのさ」

「えへへ、陽にぃなら許してくれるかなーって思って」

「もー! ……まあ、許すんだけどさ」

「わーい! 陽にぃ大好き!」


 桐原陽太は、どうにも百田七緒に甘い気がする。生来の面倒見の良さのせいだろうか。


 本当だったらチャラ男に成長しているはずだけど、そういう素振りがない今だと、百田七緒年下としてはまあ可愛い部類なのかもしれない。


「ちょっと待って、ナナくん。陽太なら許してくれると思ったってことは、ボクは許さないと思ってるってこと?」

「え……っとお。別に、そうは言わないけど……なんか悠にぃって、ちぃ姉に関わることだとたまに凄い圧を感じるっていうか……」

「圧? ボク、『優しくて常識的』じゃない? どこかおかしいかなあ」

「えー……何、何? そんなことないけどさあ、ほらやっぱり、好きな人のことって特別だからじゃない?」


 この馬鹿野郎……! 一番触れてほしくない話題を今出すなよ……!


「馬鹿」


 スパンと後ろから蓮実慧斗が百田七緒の頭を叩いた。


 よくやったと言いたいことろだが、少し遅かったようである。ワイワイと騒がしかった場が静かになり、率直に言って気まずい空気が流れた。


 乙女ゲームの大団円ルートとか、皆ヒロインのことが好きになって仲良く喧嘩してるルート、たまにあるけど……。あれもふとした瞬間にこういう空気になったりしてるのかな……。


 現実逃避をしてみたけれど、目の前の現実は何一つ変わることはない。


 結局どこかぎこちない空気のまま、学校までの道を歩むことになった。


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