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第102話 タイトルでプレイヤーを煽った天罰か?

 舌が痛い。


 よう、元気かね? 私は自室で舌を噛み切りチャレンジに失敗して、普通に舌を傷めたよ!


 ダメだこれ、チキンには明らかに向いてなかった。


 自作乙女ゲー世界に転生して、早十五年。


 この世界を絶対に滅ぼすと決意したはずが、何故かラスボスが更生してしまい……。絶望に浸るも、ラスボスの父に目をつけ、世界の滅びに思考を誘導した……のになぜかこれも更生されてしまった。長年希望を抱いていたことが上手くいかなかったことに、私は愕然としてしまった。


 あれ、これもしかして詰んだ?


 そう思っているところに、何故かラスボスからの告白を受け……更にそれを皮切りにして、怒涛の攻略対象たちの告白シーンスチル再現が起こってしまった。


 私のメンタルは本当にもうそろそろ限界を迎えようとしている。もはや世界の滅びが期待できないのなら、己がこの世界を去るほかない、と、舌を噛み切ろうとして……チキンが発動していた。


 ここでチキンが発動しているということは、私は自分で思っているほど本当は苦しんではいないのだろうか……? 実は満更でもないと思っている自分がいるのだろうか……?


 そう思っていたのだけれど、ついに先日ぶっ倒れて病院に運ばれ、ストレス性の胃腸炎だと診断を下された。


 ついに胃痛で倒れたか……。いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたが、タイミング的にやっぱり私の苦しみは偽物ではなかったとわかってちょっとだけ安心した。


 私が病院に運ばれた後、攻略対象たちの間ではひと悶着あったらしい。どうやら、私が奴らに対してどう返事をするのか悩みすぎたストレスで倒れたと思われたらしい。


 断る一択しかないのだが、単純に告白スチル再現乱舞に胃をやられたのは間違いないので、大きく外れてはいないだろう。


 なんかもう起きている事象の全てが辛すぎて、思考を放り投げてたから、返事をしなきゃいけないということすら考えになかったんだけどね!


 まあとにかく、ひと悶着あった末に、「返事はいらない」ということになったらしい。ここに関しては本当に倒れて良かったと思わざるを得なかった。


 だって想像してほしい。告白の返事をするという、その空気とか場が想像するだけですごく気持ち悪い。鏡に向かって「本当にごめん、お前とは付き合えない」と語りかける時みたいな気分になると思う。

 めちゃくちゃ気持ち悪いな!


 想像するだけでも胃が痛くなるのだから、実際に起こったらそのたびにぶっ倒れそうである。うん、無理だね。


 そういうわけで、私は一旦若干の精神の安寧を手に入れた……というか、元の生活に戻ったのだった。


「千代ちゃん、本当に大丈夫? 倒れたばかりなんだから、無理しちゃだめだよ」


 久しぶりに学校へ登校する日の朝。いつも通り一緒に登校していた柊木悠真は、眉を下げながら私のカバンを奪おうとしてきた。


 アニメ化した乙女ゲームのキャラで、やたらとカバンを持とうとしてくるキャラいたよね。思い出しちゃうからやめてほしい。


 なんかそういう妖怪みたいで笑っちゃうだろ。


「大丈夫」


 丁重にお断りする。


 柊木悠真は、少し不満そうな様子ではあったが、流石に無理やりカバンを奪うような真似はしてこなかった。


「本当に、無理はしないでね」

「うん……」


 無理は現在進行形でしている。


 私がとんでもチキンオタクでさえなければ、既に私はこの世界とおさらばしていたはずなのだ。


「千代ちゃん……その、本当にごめんね」


 不意に、柊木悠真に頭をさげられた。一瞬何のことだろうかと考えて、すぐに、告白の返事で悩ませすぎた、と思っているのだと理解した。


「ううん、私の問題だから」


 キミらの好意そのものが毒っていう特殊な立ち位置の人間なだけだから。


「千代ちゃん……」


 潤んだ瞳を向けられているところ、悪いんですけど……。この話題またスチル再現とかイベント再現に繋がりそうで胃がキリキリしてきたから、やめてもらっていいかな。


 この話はもうやめようかと、そう声をかけようとした瞬間、遠くから聞きなれた声が聞こえてきて、私と柊木梓馬の視線はそちらに向かう。


「ちぃちゃん、悠真、おはよー!」


 キラキラとした笑顔で手を振っているのは、桐原陽太である。髪色も相まって、異様にまぶしい。


「おはよう、陽太。今日はスムーズに出てこられたんだね」

「あはは、伊達に長年嫌がらせされてきてないからね。慣れたものだよ」


 さらっと可哀そうなことを言っているが、私は桐原陽太の生活環境を改善できるような力は持っていないし、そもそもする気がない。


 桐原陽太は、未だに同族からの爪はじきに遭っている……というか、それはより悪化していると言っていいだろう。


 柊木悠真の存在を恐れて手を出してこないだけに過ぎないのだ。


 その代わりと言わんばかりに、姑みたいなネチネチとした小さな嫌がらせをされ続けているらしい。あやかし、器が小さい。


 本来ならこの時期は、爽やかな笑顔の裏で鬱屈とした心を抱えているはずなのだが、何故か桐原陽太はケロッとしている。


「それにしても、自分たちと少し違うところがあるからって、未だに嫌がらせをしてくるなんて……本当に連中って、幼稚だよね」


 ここ数年で更に磨きがかかったドールフェイスが、輝いている。


 もしかしてこれ、腹黒キャラにするかどうか結構最後の方まで悩んで、割といい性格をしているって書き足したのが原因だったりするんだろうか。


「そうだね。もし陽太が我慢できなくなったら、いつでもウチに来なよ。ボクはいつでも歓迎するからさ。我慢してまで、意見のあわないひとたちと一緒にいるべきじゃないよ」

「悠真~……! ありがとう、悠真も何かあったら、オレを頼ってくれていいからな」


 相変わらず仲良いなこいつら……。


 柊木悠真と桐原陽太も、持っている能力が闇と光なだけあって、折り合いはすこぶる悪いはずだった。


 そもそも、『ロストタイム』というタイトルをつけたのは、最後にプレイを推奨した柊木悠真のルートをプレイすることで、その他のルートで迎えたEDの後、実は世界が滅びていたことが明らかになる仕掛けを作ろうとしたからだった。


『あなたたちプレイヤーが今まで彼らと過ごした時間は、全て無に帰しましたよ』という意味である。今考えても非常に趣味の悪いタイトルだと思う。


 その為、基本的にはすべての攻略対象たちと、柊木悠真は敵対関係にあると言っていい。その中でも、桐原陽太は攻略対象たちのリーダー的な役割を持たせていたので、最も柊木悠真との対立を描いた人物であった。


 それが何故か、今ではすっかり親友のような関係性を作っているのだから、おかしな話である。


 今、攻略対象たちで二人一組を作るとするなら、柊木悠真と桐原陽太で一組、蓮実玲児と水瀬慧斗で一組になって、余った百田七緒と私で一組って感じになるのではないだろうか。


 ……いや、全然二人一組とか、作りたくないんですけどね。

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