表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/110

第99話 他人に命を握られている………ってコト⁉︎

 どんどん追い込まれている感じがする。


 私は一人、泣きたくなっていた。攻略対象二人に、告白まがいのことをされたせいだった。気分としては、飛び降り台の先か、もしくは切り立った崖の端に立っていて、ナイフを手にした人間に追い詰められている時みたいな感じだ。


 助けてください、先生!


 そんな感じで心の安寧を、私は蓮実玲児に求めた。


 本当は、攻略対象丸ごと距離を置いて、全く関係のない子のところに逃げ込みたいのだけれど、いかんせん私には友達が少ない。それに、距離は置かせてもらえないので他に選択肢がなかったのだ。


 まあでもコイツ、攻略できねえタイプの攻略対象だからね! 攻略対象の中だと一番ましなんじゃないかな。


「お前、最近俺の教室の方に来るの、何なンだよ、うっとおしいな」


 当然のような顔で屋上に侵入した蓮実玲児の後に黙って付いていった昼休み。蓮実玲児は眉をしかめて言い放った。


 これこれ、この対応だよ。


 私は決してMではないはずである。しかしながら、ここまでくると、こと自作攻略対象相手においては、正直好意を向けられるより雑に扱われる方がありがたいのである。なんなら、嫌われてても構わない。私も遠慮なく存在を疎めるし。


「……居づらい」

「ア? あー……そういや、何か悠真と変な空気だったよな。最近だと、陽太とも」


 だからなんでコイツそんな正確に把握できてんだよ。やっぱり私の心読んでないか。


「なンだよ、喧嘩したのか?」

「喧嘩、違う」

「チッ……なんだ」


 おい。よしんば喧嘩していたとしても、私と柊木悠真、桐原陽太の喧嘩であって、お前は無関係だということを理解しろ。残念そうにするな。


「ふァ……眠ィ。おい、膝貸せ」


 返事をする前に、膝に頭を乗せられてキレれそうになった。


 ……こいつ、私がケンカップルタイプの推しカプで五億回妄想したような挙動を取りやがって……! スチルが出そうな行動するんじゃねえよ……。


言っとくけど、お前同級生だからギリセーフ感が出ているだけで、お前が年上の攻略キャラだったら、何人かの乙女ゲーマーには「女子高生の膝に寝ころぶ成人男性やば」ってキモがられる可能性あるからな。


 というか、乙女ゲームのやべえ男枠ってCERO上げ担当してる側面もあるから、スキンシップ激しいというか、対象年齢上げがちなイベント多い気がするんだけど、気のせいかな。


 そんなことをつらつらと考えていたら、眠っていると思った蓮実玲児が目を開いてこちらを見ていた。


 こえーよ。無言で人を下から見上げるんじゃねーよ。


「何?」

「別にィ?」


 言いながら、蓮実玲児は手を伸ばして、私の髪をいじり始めた。


 切るのが面倒で放っておいたのだが、こんなことをされるくらいなら切っておけばよかった。軽率に他人に体の一部に触れられるの、普通に怖気が走る。


 というかイベントみたいな事されると鳥肌が立つからやめろ。


「……付き合うワケェ?」

「は?」

「ア?」


 やっべ素でキレちゃった。


 だから人の心を読むなっつってんだろ。


「何の話」

「ア? 告られたンだろ?」


 すっとぼけようとしたけれど、普通に突っ込まれてしまった。心は読めても、空気は読めないらしい。


「……ない」


 そんなつもりはさらさらない。百パー無い。


「あ? お前、悠真のコト自分好みに躾けてたんじゃないワケェ?」


 なんだか凄まじい誤解を受けている気配を感じるが、別に私は柊木悠真を光源氏よろしく自分好みに育てようとしたわけではない。推しの傾向を尋ねられて答えただけだ。


「違う」

「フーン。ま、どーでもいいケドォ」


 じゃあ最初から聞くんじゃねえよ。私が何のためにここにいると思ってんだ。全てのイベントを避け、気まずさと胃痛を回避するためだぞ。


 本当に空気の読めない男だと憤慨していると、蓮実玲児は懲りずに口を開いた。


「お前さァ、昔言ったこと、覚えてるか?」


 ……どれだよ。せめてヒントを出してくれないと流石に何の話か全くわからないが。


 首を振ると。蓮実玲児は目を細めた。両の瞳が、ゆらゆらと揺れる。


「構わねェって言ったよな」


 私は、その言葉に目を見開いた。それは、彼と初めて出会ってしまった時に、殺すと言われて返した言葉。そして、精神が終わった時にあの時死んでおけば……と何度も後悔した瞬間の言葉だった。


 もしかして、もう一度チャンスをいただけたりするんですか⁉︎


 私は期待に胸を膨らませて、激しく頷く。


「だろうな」


 蓮実玲児は、鼻で笑った。けれどそれは、バカにするような響きではなくて、どこか安堵したような響きを持っていた。


「その覚悟がずっと変わんねェなら……。オレが全部消してやろうか?」


 ……なんか急にとんでもないこと言い出したんですけど……。


 蓮実玲児の「全部消す」という言葉は、文字通りの意味ではない。


柊木悠真の世界を滅ぼすというのは、継承してきた柊木の一族の能力、闇の力(笑)によるものだ。それは、世界の存在そのものを消滅させる力だ。文字通り、世界が消えてなくなるのだ。そこには痛みも苦しみも伴わない。


けれど、蓮実玲児の言っている「全部消す」というのは、言い換えれば「全部燃やす」ということになる。蓮実玲児の能力が火の能力であり、彼に暴力衝動があるという事実。それらを並べ立てれば、彼がやろうとしていることが察せられるだろう。


世界を滅ぼすことに罪悪感はない。なかった頃に……私が創り出す前に戻すだけだ。けれど、大量殺人事件を起こすと言われれば、流石にリアルスプラッタは勘弁願いたいと言わざるを得ないだろう。それに、いくら蓮実玲児がやべえ男でも、世界そのものを焼き尽くすほどの力はないしね。


絶対に遠慮させてもらいます。


確固たる意志を持って首を横に振る。


というか、なんでちょっと教室居づらいわ……って呟きから「じゃあ全員殺すか?」ってワードが気軽に出てくるのかちょっと、いや全く、理解できない。どういう思考回路なの……?


そう思いながらも、「自分が理解できないくらいのぶっ飛び思考回路の方が、やべえ奴感あっていいよな」的な私の発想をもとにされているのであろうことが、容易に想像がついてしまって、泣きたくなった。


「フーン、ま、なら好きにしろよ」


 蓮実玲児は急に興味を失った様子で、私の髪を手放した。


 ふーんで済ますような感じなんだったら、最初から恐ろしい提案をしてこないでほしい。


「興味、あるの……ないの……」

「ア?」


 そのあーあーうーうー言うのをやめなさい! 不良がなんて喋るのかわからないからとりあえず威圧させときゃいいっしょ! っていう自分の思考の浅はかさに悲しくなるから! うーうーとは言ってなかったわ、ごめん。


 脳内で説教と謝罪を一通り済ませると、蓮実玲児はやっと私の膝から体を起こした。同時に、また髪を引っ張られて頭皮にダメージを食らう。非常に痛い。


 涙目で見上げると、お決まりのように流れてくる蓮実玲児のテーマBGM。しかし蓮実玲児は攻略できない男のはずなので、他の連中よりいくらか心持がマシ……でもなかった。


 イベント再現のたびに私の心臓がドクドクと異様な心拍数を刻んで警鐘を鳴らしている。心臓が痛い……心も痛い……。


 最近胃液を吐きすぎて、そこに血が混じってきている。吐血である。


 もうストレスで完全に体が可哀そうなことになっている。


「あるかないかで言ったら、そりゃあるに決まってンだろ……。別に、お前が誰と付き合おうが何しようが関係ねェけど……。お前の命は、オレが管理してェしな……? 勝手に死なねえように、見張る必要があるってワケ」


 ストレスマッハの私に、スチル再現で追い打ちをかけて楽しいのだろうか。


 っていうか……エッ! 私の命コイツに管理されんの⁉︎


 当然のような顔をしてやばいことを言われて脳内が急速に混乱した。


 もしかして私、今後自殺すらも見つかったら危うい感じになるのでは……?


 私は天を仰ぐ。どこまでも青い空だ。


 本当……べた塗りしたような……バケツで塗りつぶしたような……手抜きの空……。


 私はその場で涙を流した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ