卒業式を終え大学の門を出た後起こった事
俺は自他ともに最高な卒業式を迎え、学長に手渡された卒業証書を持ち大学の門へ向けて歩む。
此の最高な卒業式を迎える為に大学生活を何度繰り返した事か? 何百何千回……イヤイヤそんなもんじゃ無いな、何万何十万回と繰り返したと思う。
こんな事が出来たのは、あの日、最初の大学の卒業式の前日に、アパートの近くの川岸で流れる川の水面をボーと眺めていた時だった。
4年前の春、国の最頂点に君臨する大学に入学した、それなのに……同期で入学した奴等は皆んな俺より出来る奴ばかり。
田舎の高校に通っていた頃は3年間一度もトップの座を明け渡した事は無く、先生方からも我が校から始めて国の最頂点の大学に進学する生徒が出ると言われ後押しされ大学に進学する。
だけど……所詮井の中の蛙で、入学したら周りの奴らは俺より頭の出来が良い奴だらけだった。
それでも落ちこぼれ無いように必死に授業について行って明日の卒業式を迎える事が出来た、でも……共に卒業式を迎える者たちの中で最下位での卒業。
卒業後入社する会社も同期の奴等の殆どが就職した、奴等が希望していた名の知れた一部上場の大企業や省庁なのに対し、俺だけは希望の会社から内定をまったく貰えず、一部上場の大企業の子会社の地方の会社からしか内定を貰えなかった。
それで川の流れを見ながら黄昏れていたら、目の前を流れていく瓶の中から助けを求める声がするのに気がつく。
「助けてくれー! 出してくれー!」
え? と思い、思わず流れていく瓶を拾う。
拾った瓶の中に目を向けると中には、黒い人のような物、もっと正確に言うと漫画に描かれる悪魔そっくりの奴かいた。
助けを求めているのが悪魔と知り、川から拾い上げた瓶を川に投げ返そうとしたら瓶の中の悪魔に声を掛けられる。
「助けてくれ、瓶の蓋を開けでくれ、そうしたらお前が必要としている事を1つだけ叶えてやるぞ!」
「そう言って俺の魂を持って行く気だろう?」
「魂だって? イランイラン、悪魔や神が欲しがる魂ってのは聖人君子だった者の魂だ。
お前を含む十把一絡げの魂なんて大量に有っても何の価値も無いからな。
だから助けてくれたらお礼として願いを一つだけ叶えてやる」
「ウーン、それじゃ、最高の卒業式を迎えたいっていう願いも叶えてくれるのか?」
「あぁ、叶えてやろう、お前が最高の卒業式だと思える卒業式に出会えるまで何度でも、入学式から卒業式までの期間を繰り返させてやろう」
それを聞いて俺は悪魔を瓶から助け出す。
悪魔は約束を守ってくれて、次の日大学で行われたのは入学式だった。
最初の数回は試験の点数が上がる事を目指していただけだったんだけど、途中で気がついたんだよ。
何度も何度も大学生活を繰り返す事が出来るなら、教えられている事を隅から隅まで理解すれば良いんじゃねーのと。
他の奴等はどんなに俺より頭が良くても教えられている事に費やせる時間は4年間だけ、翻って俺は全てを理解するのに費やせる時間は無限大なんだからな。
数十回数百回と卒業式を繰り返していたら数千回目の入学式を迎えた時には、教える教授たちと同じだけの知識を備えて入学した。
だから数千回目以降は、4年制大学で受けられる国家試験に必要な事を覚えて行く。
そして今、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士など多数の資格を有している。
勉学だけで無い、ロト7やロト6などで高額の当選金をゲットしたり、競馬競輪競艇オートレースで高額配当金を得たり、株や先物取引に仮想通貨など短期間で値上がりする物をロトやギャンブルで得た金で購入したりした。
そういう訳で卒業後に入社する会社も、得られた多数の資格を生かせる外資系の大企業。
だから俺には卒業後も輝かしい未来が待っているんだ。
そんな事を考えながら大学の門を出た途端、俺は塵になった。
え? どういう事だ? と、ビー玉のようなガラス玉の魂だけになった俺は周りを見渡す。
周りを見渡している俺の下に、パチパチパチパチと手を叩きながらあの時の悪魔が近寄って来た。
「どういう事だ? やっぱり魂を回収に来たのか?」
「とんでも無い、そんな魂なんて要らんよ」
「じゃ、どうして? 此れから輝かしい未来が待っている筈なのに」
「お前と約束したのは『最高の卒業式を迎えさせてやる』って所までだ。
何度も繰り返される卒業式、お前の時間はその為に時間の流れがストップしてそれを行っていたのだから、最高な卒業式を迎えた後はその堰き止められていた時間の流れが元に戻されたのだ。
繰り返しが10回程度だったら爺になるだけだったのにな、数十万回も繰り返せば塵にもなるさ」
「此れから俺はどうなるんだ? 死神に回収されるのを此処で待つのか?」
「否、死神と言っても神は神、神っていう奴等は悪魔を嫌っていてね、悪魔の匂いが少しでも付いた物には近寄らないのさ。
だからお前は未来永劫そこに転がったままだ、まぁ何時かは消滅するだろうけどな。
あぁそうそう、面白い事を教えてやるよ」
悪魔は大学の門をトボトボと潜り抜けて来た男を指さしながら話しを続ける。
「あの男、本来ならお前が入社する筈だった会社に就職した、今年の卒業式を最下位で卒業した男だが。
此の悔しさをバネにして、入社してからがむしゃらに頑張って20年後会社の社長になり、社長になってからも業績を伸ばし続けて30年後には親会社を飲み込み、40年後には地方の小さな会社を世界有数の大企業に育て上げる事になる。
本当ならお前がその地位になる筈だったんだけどな。
ハハハハハハ」
悪魔はその言葉に唖然としている俺を尻目に笑い声だけを残してパッと消えた。