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卒業文集『将来の夢』

作者: 古閑 要

「なろうラジオ大賞6」参加作品です。

俺が産まれた日は予報にない雹だったらしい。

お袋の破水の知らせを聞いて親父が職場を飛び出ると、天気はそれを止めようとしているみたいに酷く荒れていた。ビニール傘を突き抜けた数センチの氷が直撃し、額から血を流しながらやって来た親父を見て、お袋は驚きのあまり自身の痛みを忘れたという。

「お父さんのおかげで、あんたのことはあんま苦しまず産めたわ」

制止する職員を振りほどいて登場した満身創痍の親父の姿は、衛生上の是非はさておき、お袋にとってはヒーローのように見えたのだろう。

普段はめっぽう寡黙で動きのノロい親父が、そんなふうに必死になっている姿を俺はとうとう見ることがなかった。


そして今日、今度は俺が父親になる日がやってきた。

経過は母子ともに健康、公私ともに万全に我が子を迎えられると思っていたが、ここにきて予定日より二週間以上早いお産だった。あと半日でも遅ければすぐに駆けつけることができたのに、よりによって日帰り主張で遠方にいる日だった。

新幹線の窓の外を過ぎる景色さえも酷く遅く見えた。できることなら今すぐ流れるあの黒い雲に飛び乗って、病院の窓から妻の隣に一直線に駆けつけたかった。

トンネルに入り、窓が鏡のように俺の顔を映す。そうだ、身なりを整えておかないと。現場で着ていた作業服ではなく、持ってきたスーツに着替えよう。ボロボロの格好で会いに行くわけにはいかない。俺は親父とは違う。

病院は駅から歩いて十分ほどの距離だった。走れば五分。タクシーに並ぶより早い。俺は荷物を抱え直し、急いで改札から出た。

するとなんてこった。

雹が降っていた。


僕が産まれた日は予報外れの雹が降っていたそうです。

病院の連絡を受けたお父さんは出張先から飛んで来たらしいのですが、雹が降っているのに傘もささず、顔に擦り傷までつくって、息を切らして必死な顔でお母さんの目の前に現れたそうです。その姿を見てお母さんはなんだか笑ってしまって、出産で苦しいはずの気持ちがちょっぴり楽になったそうです。

お父さんはいつも難しい顔をしていて、家でもあまり喋りません。でもお母さんがその話をすると少し恥ずかしそうにやめなさいと言います。本人には言えませんが、その時のお父さんの表情が僕は好きです。僕もいつか、お父さんのように、大切な人の大切な時に、何があってもその隣に駆けつけてあげられるような恰好いい大人になりたいです。

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