スカウト
「そうだったのね………貴方が王様………」
エルムは動揺を抑え、ミナトの手を取る。
「んっ、偉いと分かって即土下座。権力の犬、拝金主義の権化」
「リオ、失礼だよ。それに、分かってくれればいいんだから」
「ええ、分かったわ」
ガシャリという音が手元から響き、ミナトは自身に嵌められた手枷に気づく。
手枷は魔法で出来ているのか、どれだけ動かそうとしても力を吸収するように形を変え、外れることはない。
「えっ、エルム!?」
「貴方が詐欺師だってことは、よく分かったわ。だから、このまま王都までついていってあげる。知ってる?身分詐称は立派な犯罪なのよ。ましてや国王を僭称するとか、お遊びでも重罪なんだから。心配しないで。神代のエルフである私が弁明してあげるから、半年もすれば牢から出られるわ。さっ、行くわよ」
「いや、だから誤解だよ!!本当に王様なんだって!!デボラさん、リオ、なにか言って!!」
「助け舟を出してやりてえんだが、客観的に見たら百人が百人詐欺だと思う案件だからなぁ。もう面倒くせえから、一度王都まで行くのもありなんじゃねえか」
「同意」
「この状態で王都に連行されるとか、国王としての沽券に関わるからっ!!そうだっ、背嚢にシャルロッテからの親書が入ってるから、それ見せて!!」
リオはヤレヤレといった表情で背嚢から一枚の書状を取り出し、エルムの鼻先に突きつける。
「何これ、貴族からの書簡の偽造にまで手を染めてるの?こんなの魔術署名を鑑定すれば、すぐ偽物だってバレるのに………えっ、これってジェベル式の術式?魔力の揺らぎもないし、形式上の不備もない………まさか本物??じゃあ、貴方って本当に王様なの!?」
「ようやく疑いが晴れたみたいだね」
ミナトは拘束された手を前に突き出し、解除されるのを待つ。
「いいえ、本物なら本物で疑いだらけよ!!だいたい何で王様本人がゴブリン討伐なんて汚れ仕事をやってるの、臣下に任せなさいよっ!!それにお供の数だって少なすぎるわ。最悪陣頭指揮を取るにしても、自分の安全だけは絶対に確保しなきゃダメでしょ!!国王が死んだら国の存続にも関わるって分かってるの!?」
「んっ、正論&正論」
「反論してえが、指摘が最もすぎて言葉もねえな」
「いや、まだ出来たばっかりの国で人手が足りなくてさ………」
「それにしたって、魔法詠唱者なしで敵の本拠地に乗り込むのは不用意ってレベルじゃないわよ!!魔術的防衛策がなにも取れないんじゃ、相手のやりたい放題なんだから!?まさか、国に一人もいないってわけじゃないでしょ??」
エルムの叱責にも似た問いに三人とも小首を傾げ、一様に渋い表情をする。
「呆れた、魔法詠唱者一人いないの!?本当にそれ国なの??そんなのもう村よ、いえ、村以下ね!!」
「ははっ、耳が痛いな。ボクとしても魔法が使える人材をスカウトしなきゃとは思ってるんだけど、魔法詠唱者って人数が少ないうえに、国から貴族から冒険者まで、とにかく引っ張りだこだからさ。ウチみたいな小さな新興国には中々来てくれないんじゃないかと………」
ミナトは深いため息をつき、ガックリと肩を落とす。
「まともな脳みそをしてるなら、そんな怪しげな国に仕えようと思う人間はいないでしょうね。まっ、どうしてもって頭を下げて頼み込むなら、仕方ないわねって応じる心の広い天才魔術師もいるかもしれないけど。ちなみに、私は帝国魔法学院を導く立場だから、よっぽど強く頼まれでもしない限り無理よ。宮廷魔術師、いえ、魔法尚書の地位を約束されるならともかくね」
「ああ、うん、大丈夫だよ、無理強いは出来ないからね」
「そ、そう、強引に誘われるんじゃないかってヒヤヒヤしてたから、安心したわ………で、どうするの、魔法詠唱者問題は」
「そうだね、当分は冒険者ギルドにでも求人を出して、誰でもいいから来てもらえるようにお願いするしかないかな」
「そんなの犯罪者まがいの食い詰め者しか来ないでしょ。優秀な人材を得るには、王様自らが直談判するくらいの気概を持ちなさいよ。例えば、自分が思いつく一番優秀な魔法詠唱者に恥も外聞もなく平身低頭するとか。仮に私がそうされたなら、少しくらい交渉のテーブルについてあげても良いと思わなくもないわ」
「そうだね、本当は信頼できる人に直接お願いしたいんだけど…………そうだ、エルム、折り入って話があるんだ」
「な、なによっ」
「帝国魔法学院の卒業生とかで良い人がいたら紹介してくれないかな」
恥を忍ぶようなミナトの物言いに、エルムはただ氷のような微笑を浮かべるだけだった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
焦らしは基本
あと、恐ろしいことにこの作品99話まで投稿してるのに感想ゼロらしいですよ(衝撃)
これはもう初感想を書いて、歴史に名を残すしかありませんね!!(露骨な誘導)




