神の見えざる手
「ふ、ふんっ、人間にしてはやるじゃない。貴方その格好で本当に魔法が使えたのね、てっきり剣士だと思って………………剣!!剣ッ!!!」
「んっ、無理なタイプのエルフ、いま良いとこだから静かに」
「そうじゃなくて!!なんか剣からドロッとした血みたいなの垂れてるから!!怖いんだけど、なんなのよそれ!!」
リオはいつの間にか手にしていた剣を見つめる。
「………手汗?」
「量すごくない!?色おかしくない!!??どういう生活したら、そうなるのよ!!」
「常在戦場、四六時中戦いのことを考えてると、自然と手汗が血の色になる。多分冒険者の8割はこんな感じ」
「キモいんだけど!?やっぱり人間って下等生物だわ………あっ、また斬った!!効いてる、効いてるわよ!!ふふん、やっぱりね、わたしが予想した通り、まだあの竜は生まれたてで、鱗も柔らかかったのよ。まぁ、貴方の魔法も少しだけ効果があったのかもしれないけど、私に比べれば子どもの遊びみたいな物なんだから、あんまり調子にのらない事ね。………………なによ、反論があるなら言いなさ………………………って、ええええぇぇぇぇえっ!?剣、だから剣ッ!!!!」
エルムが絶叫とともにリオの剣を指さす。
先ほどまでは刃に伝う程度だった赤黒い液体は、目を離した隙に刀身全てを覆うほどの量となり、周囲に漂う鉄分をふんだんに含んだ臭気は、その液体は何者かの血液であることを何よりも雄弁に物語っていた。
「んっ、興奮して剣を握ったらちょっと指切れた」
「おかしくない!?明らかに貴方の全血液量を超える勢いの出血なんだけど!!??」
「血気盛んなお年頃」
「意味違うでしょ!!」
「んっ、それにこの剣、ほっとくと勝手に血が出てくるとこある」
「呪われてない!?そんな魔剣はやく捨てなさいよ!!………あっ、危ないっ!!どうしたのよ、ミナ………貴方の所の小さいの、どんどん動きが鈍くなってない!?」
エルムの言葉通り、囮として竜の攻撃を引き付ける役割を担うミナトの動きに先ほどまでの俊敏さはなく、手傷を負ったことで竜の攻勢が衰えていなければ、何度か冥府の門をくぐることになっていただろう。
デボラもミナトの異変を察知し、しきりに自らに注意を向けさせようと声を上げるが、ポーションで傷は癒えたとはいえ、短期間のうちに肋骨の骨折、そして胸部を貫かれるという大怪我を負い体力が奪われているためか、万全の状態と比べれば動きに精彩を欠き、竜の攻撃をすべて自分に向けるまでには至っていない。
「ミナト、下がれ!!手負いの獣は危ねえ。ましてや瀕死の竜ともなりゃ、何をしでかすか想像もつかねえ。こっちは掠りゃ大怪我、当たりゃ即死なんだ、邪魔だから下がってろ!!」
「そういうデボラさんも苦しそうじゃないですか。あと一押しです、休んでる暇はありませんよ!!」
ミナトは言い終えると再度駆け出し、最後の爆竹を放り投げた。
鼻先で激しく明滅する爆竹に、竜はそれを投げたミナトへの怒りを露わにする。
全身を切り刻まれ自らを覆う血のベールに重く沈み込んだ竜は、最後の力を振り絞り、目の前の小さな獲物を屠らんと爪を振り上げる。
グラッ
不意にミナトの足がもつれ、力なく両手を地についた。
「ミナトっ!!避けろっ!!!!!!!!!」
動きを止めた敵を前に、竜は力の限り鉤爪を振り下ろす。
ガギッ
爪が石畳に深々と突き刺さり、竜はようやく小うるさい羽虫を仕留めたことに、無数の傷による痛みも忘れ、歓喜の雄たけびをあげる。
だが、その喜びも、叩きつけた前足の下でバラバラとなり、真っ赤な血と肉の塊となっているはずのミナトの姿がないことで、失望から疑問へ、そして憤怒へと変容していく。
「え?えっ!?ミナ………小さいのは何処に行ったのよ!!」
「んっ、あそこ」
リオは服についた汚れをパンパンと払いながら、遥か上空を指し示す。
ドーム状に膨らんだ天井を持つ部屋の最上部にある神話を象った石造りの彫像を掴み、もう一方の腕で剣を構えるその姿は、紛れもなくミナトのものであった。
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ミナトの跳躍力すごいですね(棒)




