デバフ
「なにやってるのよ、バカ!!死にたいの!?早く逃げなさい!!」
竜の真正面に堂々と歩み出たリオに対し、エルムは柱の影に隠れながら必死に叫び、手招きをする。
「んっ、大丈夫、爬虫類カフェだと思えば怖くない」
竜はリオのあまりに無防備な様子に違和感を覚え、自分からは動こうとしない。
「リオ、どうする気?まさか、またイドホリボルグを使うつもりじゃ………」
「ドラホリボルグもあるけど、この大きさだとちょっとグロい。あと血飛沫とか内臓とか処理が大変。スタッフが美味しく頂くのにも限界ある。とうとう私の魔法を披露する時」
「魔法?リオ、魔法が使えるの!?」
ミナトの問いかけにリオは再び親指をグッと立て、ポシェットから糸と穴の開いた硬貨を取り出した。
「ウロコ ヨワ ク ナール ヒフ カユク ナール サカム ケヒ ドクナール ネツケ ナクナール アブラ モノ ツラク ナール ハダ ノチョウシ ワルクナール ケショウノリ ビミョニ ナール」
竜の鼻先で糸から垂らしたコインを振り子のように揺らしながら、詠唱を続けるリオ。
突拍子もない行動に、竜もどう対処すべきか決めかね、仕方なくコインを見つめリオの呪文?に耳を貸す。
「澱みのない詠唱、世界を分解していくような独特のリズム、竜すら魅了する魔力………まさか、貴方も真言が使えるの!?」
「いや、絶対違うから!!適当に片言っぽくいえば真言になるわけじゃないからね!?っていうか、エルムはアレが真言じゃないって分からないんだ!?適当だったの、さっきのカッコいい詠唱も、適当にやってたの!?」
「んっ、良い感じにデバフはいった。ほぼ物理防御皆無。ヨワヨワお肉になってる。切れ味悪い包丁で切るパン並みにスパスパいけるはず」
「微妙に切れなさそう!!えっ、本当にこれだけ!?大丈夫なの、リオ!!」
リオは役目を終えたと言わんばかりに竜に背を向け、ミナトに向け三度目のサムズアップを決める。
「後はエルムと一緒に観戦タイム。ミナト、ファイト」
「ファイトって………分かったよ、リオ、信じるからね。デボラさん、今なら攻撃が通じます!!理屈は忘れてください、とにかく竜を倒しましょう!!」
「あんな子供騙し信じろってか、冗談きついゼ。まっ、駄目元だろうが死にたくなけりゃ得物を叩き込み続けるしかねえか………やるしかねえなぁ!!ミナト、お前が引きつけてくれ、隙を見てオレがぶちこむ!!」
「はいっ!!」
竜は眼前で起こっていたことが壮大な茶番劇であったと理解したのか、謀られた怒りを咆哮として叩きつける。
骨が軋むような音波のなか一縷の望みを賭け、ミナトとデボラが駆け出す。
ミナトは走りながら、茶色い金平糖のような物を背嚢から取り出し、先についた糸を引き抜き、竜の前方にばら撒くような投げる。
パンパンパンッ
激しい破裂音に竜の瞳がミナトに向く。
農村などで猪や熊などを威嚇し追い払うため用いられる爆竹の携帯性をあげただけのアイテムであり、殺傷能力は皆無だが、数秒間敵の注意を引くにはそれで十分だった。
「簡単に引っかかりやがって、脳みそは赤ん坊のままみたいだな。さっきの小鬼の方が、よっぽど頭使ってたぜ。喰らいやがれっ!!」
同じ箇所、同じ構え、同じ角度、同じ速度。
先ほどと寸分違わぬ斬撃が竜を襲う。
ザクッ
重く湿った衝撃音が大戦斧の刃を通してデボラの神経を震わせる。
そして傷口から噴き出す真っ赤な飛沫。
「グォォォォオオオオオッッッ!!!!」
これまで感じたことのない痛みに、竜が尾を激しく周囲に叩きつけ暴れ回る。
「くっ!!」
尾により跳ね上げられた小さな石礫がミナトの腹部を直撃し、薄手の革鎧越しに内臓がグニャリと歪む感覚が肉体を貫く。
「本気かっ!!おい、ミナト、斬れるぞ!!しかも、まるで斬った感触がねえくらいに簡単に!!これなら勝てるかもしれねえ。長期戦になると体力の違いでオレ等が不利だ。一気に息の根を止めるぞ!!」
「………分かりました!!」
ミナトはともすれば意識を失いそうなほどの痛みを堪え、再び背嚢から爆竹や投げナイフ、呪符を取り出し、荒れ狂う突風のように暴れ回る竜を見据えた。
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次回、決着します!!(多分)




