ドラゴンスレイヤー
「んっ、竜殺しは建国譚の基本。鱗を使ってミナトの100日コーデ完成させる」
「リオ、戦ってくれるの!?」
笑顔を向けるミナトに対し、リオは首を捻り、捻り、思い出したかのようにポシェットの中からアンチョコを取り出し、中身を確認する。
「ダメっぽい………たぶんギリ駄目。ミナトがグシャグシャに踏み潰されて、あと一踏みでゲームオーバーって感じになったらOK」
「グシャグシャに踏み潰された時点でゲームオーバーだけど!?そんな丈夫じゃないからね、ボク!!」
「ミナト、和んでるとこ悪いけどよ、敵さんはバッチリ目覚めて、殺る気満々みたいだぜ………来るぞ、一発でも掠りゃお陀仏だ、死ぬ気で避けろ!!」
竜がミナト達に向け突進する。
それは、まるで雛鳥が親の後を追いかけるような、何の暴力的意図も持たないただの歩行に過ぎなかったが、地面は揺れ、石は砕け飛散し、わずか数十歩の歩みにより、ありとあらゆる物が死の弾丸となって飛び交う地獄絵図を生み出した。
「キャーーーー!!なんなのよ、もう!!!」
「んっ、ワンチャン刷り込みで親だと思ってついてきてる説。手を出したら、お手してくれるかも」
「腕が根本から持ってかれるから!!リオ、エルムを頼んだよ、竜はボクとデボラさんで何とかしてみる」
「これ相手に何とか出来るイメージが湧かねえけどよぉ、やるしかねえな!!」
ミナトがデボラに目配せをすると、二人は左右に分かれて大きく弧を描くように駆け、竜の側面に回り込む。
竜は一瞬どちらを追うべきか逡巡するが、より大きく鈍そうな獲物だと考えたのか、デボラに向け人の腕ほどもある鉤爪を振り上げた。
「お前の相手はこっちだ!!」
ミナトは自分から注意が逸れたことを確認すると、竜の瞳に投げナイフを放つ。
カツン
反応が遅れた竜の瞳に、鋭くとがれた刃が突き刺さるかと思われた瞬間、確かに当たったはずの投げナイフは目に見えない何かに弾かれ、重力に抗えず石畳へと落下した。
「ダメか………」
「なんだよ、魔物風情が投擲物に対する神の加護でも持ってんのかよ!!」
「んっ、単にレベル差。この世界は攻撃力が防御力を超えないと1ダメージも入らない仕様。低レベルクリアを許さないシステム。やり込み勢涙目」
「ちっ、相変わらず言ってることが分かんねえんだよっ!!」
ミナトに気を取られ、鉤爪を振り上げたまま硬直している竜の足を、デボラが大木を切断するように全力で大戦斧を叩きつける。
ガギッ
金属と金属がぶつかるような鈍い音が響き、鱗を断ち肉を斬るはずであった大戦斧は、鱗にヒビを入れることすらできず跳ね除けられる。
「なんて感触だよ、硬えなんてもんじゃねえな………こりゃ、ちょっと勝ち筋が見えねえぞ」
デボラは大きく息を吐き、無理矢理口角を緩ませるが、その瞳には絶望の色が浮かぶ。
「あ、諦めるんじゃないわよ!!私が魔法でパパッと吹き飛ばすから、時間を稼ぎなさい!!」
エルムは目を閉じ、詠唱を始めるが、その声は震え、真言が浮かぶこともない。
「ははっ、残念ながら、この竜は君達の手に負えるようなものではない。本当であれば、彼にもっと冒険者や魔物、亜人の血と肉、魂を注ぎ込み、黒き竜の王とし、世界の理を盤面ごとひっくり返すような存在としたかったのだがね。しかし、現状であっても最早人の手に負える存在ではない。六大魔公をも打ち倒すという、神託の勇者でない限り、彼には勝てんよ。君達を殺す気は無かったのだが………せめて安らかに眠るといい。私は私の為すべき事のため、過去と決別するとしよう」
エクリウスはそう言い残し、竜の背後にある扉から部屋を出る。
「くそっ、あの爺をとっ捕まえるためには、ドラゴンスレイヤーになれって言うのかよ!!」
「エルム、扉から出れば逃げられると思う?」
「無理よ、この部屋は転移門で他の場所と繋がってるだけだもの。例えるなら、あの魔法詠唱者は牢番で、私達は鍵を盗んで牢に侵入した犯罪者。牢番が牢を出て、外から鍵を閉めた以上、扉を開けることは牢の鉄格子をガタガタ揺らしてるのと同じくらい、馬鹿で無意味な行為よ。扉は何処にも繋がってないし、私達はここから出られない」
「つまり、竜を倒さないと、生きて帰れないってことだね」
ミナトの言葉にエルムはコクコクと頷く。
「明らかに無理ゲー、調整ミス。でも、個人的に負けイベントは嫌い。仕方ない、一肌脱ぐ」
そう言うとリオは竜の前に歩み出て、ミナトに向かいグッと親指を突き立てた。
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ドラゴンスレイヤー、憧れますよね




