黒き竜
「どうやって此処を………まさか、あの短時間で真言を同期させたというのか!?あり得ない、そんな事はあって良い事ではないっ!!我が数千年におよぶ叡智が………何故だ……………」
「んっ、なんか効いてる。チャンスの予感。口撃する流れ」
「口撃って言ってもよお、オレらだって何がなんやら………」
突然の転移に、リオを除く3人に焦りの色が見える。
「真言を同期………もしかして、さっきのエルムの………」
ミナトの言葉に導かれるように4人の視線が一斉にエルムを捉え、少女が紡ぐであろう理を待つ。
「ふぇっ、あ、あっ、私?………ふ、ふふっ、よ、ようやく理解したようね、この世界の真理を。真言とは真なる言葉。真なる言葉とは…………真理を意味しているわ。えっと、だから…………その言葉は無限ゆえに、あらゆる有限と繋がっているの。つまり貴方の真言を読み解けば、その糸がどこに繋がっているか予測することは、赤子の手を捻るより容易なことよ!!」
「無関係なのに、いきなり手を捻られる赤子さんサイドに悲しき過去」
「リオ、例えだから、例え!!」
「無限を辿り、有限に至る、そんな事が可能だと言うのか!?いや、それならば、私の積み上げてきたものは………」
エルムが口にしたのは、勢いに身を任せ思いついた単語を適当に寄り合わせ構築した、稚拙な作り物の理であったが、そのでたらめな真理がエクリウスを大きく動揺させた。
「無限と有限を別だと考えてるのは、貴方の小さな物差しでしかないでしょ。真言は無限、無限は全てに通じうる、だったら後はやるだけじゃない」
続く言葉に、エクリウスはピタリと動きを止め、やがて破顔した。
「ふはははははっ!!そうか、そういうことか!!楽しい、本当に楽しい日だ!!私が辿り着いたと思っていた真理は、連なる山々のうちの丘にも満たぬ小さな小さな頂上でしかなかったのか……………無限は全てに通じうる、君の真理、確かに学んだよ。明日の私は今日よりも確実に一歩進みうる、そう信じ、私も再び無限の荒野に身を浸そう」
「おいおい、お前の明日をオレらが許すと思うのか?」
「許さないだろうね。なれば、わたしの全てを君達にぶつけよう。軛は解かれた。黒き竜よ、その力をもって、この小さき世界を打ち壊せ!!」
パキリ
竜を覆う殻にヒビが入り、その亀裂は装置だけでなく部屋全体に広がってゆく。
パリンというガラスが砕け散るのにも似た音が耳管を巡り、緑の粘液が波のように足元に打ちよせる。
「グオオオオオオオッ!!!」
地の底から響くような雄叫びにミナトは咄嗟に耳を抑える。
鼓膜を守るべく耳に添えられた手が振動により震え、肉が、骨が、内臓が、血が、根源的恐怖と共に君臨する圧倒的な強者への畏れから泡立っていく。
「マジかよ、まさかあの黒い竜は、さっきのゴブリンの王さんと同じノリで強化されてるってわけじゃねえよな?放置しすぎて汚れてるだけなら、斧で汚れを削り取ってやるけどよ」
冗談めかしたデボラの口調も、いつもの軽快さを欠き、ともすれば恐怖に震えているようにすら聞こえる。
竜。
それは冒険者にとって畏敬の対象で有り、同時にいつか倒すべき目標ともなる最強の魔物。
この世界において、竜の祖先は始祖たる神の骨から生まれたとされている。
神に近い存在であるが故に、神代のエルフと同じく数千年の寿命を持ち、その多くは長ずる前に命を落とすが、歳を重ねた竜はそれこそ神を思わせる圧倒的な実力を有する。
この世に生まれ落ちてから数十年も経っていない幼少期の個体を指す緑竜であっても、討伐に成功すればミスリルの称号を得ることが出来、成長したした個体である老竜を屠れば、ドラゴンスレイヤーの栄誉、そして人類の切札たる力を有する証としての称号『竜燐級冒険者』を名乗ることを許される。
竜とは、それほどの力を持つ魔物なのだ。
もし竜に先ほどの小鬼の王と同等の強化が施されているのだとしたら………ミナトは恐ろしい仮定とともに目の前の黒い鱗を持つ竜を見上げた。
艶やかな竜鱗の奥に浮かぶ分厚い笑みは、黒き小鬼の王と同じ匂いを放っていた。
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次回VS竜です!!!




