薄氷の勝利
呪符を捨て剣で迎撃を試みるという発想の埒外にある動きに、一瞬小鬼の速度が落ちる。
しかし、傷を負い、走ることもままならないミナトの姿を確認すると、小鬼の王は口の端を醜く歪ませ、再び構え直し一気に距離を詰めた。
(そうだ、呪符による魔法がなければ、非力なボクの攻撃を盾で防ぐのは造作もないこと、奴はそう考える)
ズルッ
小鬼の足がミナトの流した血に取られ、ほんの僅か体勢が崩れる。だが、小鬼の頑健な足腰はぶれた体幹を即座に戻し、再び石床を思い切り踏み締めた。
(ボクの血程度じゃ隙は出来ない、それくらいは小鬼もわかってる。だから、気にせず突っ込む。床に何が仕掛けられているか、警戒することもなく!!)
グラリ
石床を蹴り、跳躍しようとした小鬼の足が、糸状の物に絡め取られる。それはミナトが愛用している、蜘蛛人の投網であった。
「そこだっ!!」
足を取られ、盾で隠れていた小鬼の上半身が露わになる。
勢いはそのままに前のめりになる小鬼の首筋めがけ、ミナトは渾身の力を込め剣を突き出すと、小鬼も千切れかけた腕を持ち上げ剣ごと身体をぶつける。
グサリ
肉を貫く音がミナトの骨を軋ませ、脇腹から血が噴き出す。
同時に小鬼の喉仏から、逆流した血液と漏れ出る空気が奏でる奇怪な二重奏が広がり、喉から脊髄を貫かれた黒き小鬼の王の瞳は、永久に光を失った。
「んっ、ミナトの勝利」
「勝ったの!?」
リオの後ろに隠れ、目を両手で覆っていたエルムが驚きと喜びが入り混じった声を上げる。
「あぁ、ミナトの勝ちだ!!」
デボラが歓喜の雄たけびをあげると、脇腹を抑えへたり込むミナトのもとに3人が一斉に駆け寄った。
「ぐおっ、走ると痛ってえな!!…………ったく、お互い酷え有様だけどよぉ、やりやがったな、ミナト!!」
「手酷くやられましたけど、何とか倒せました。敵の勢いを利用したのは良かったですけど、相手の武器にもう少し気をつけるべきでしたね………ッ!!」
仲間に囲まれ緊張が解けたためか、気合いで抑え込んでいた痛みがミナトを襲う。脇腹の傷は思いのほか深く、我慢すれば耐えられるといった類のものではないことは明らかだった。
「おいっ、大丈夫か!?とりあえずポーション飲んどけ、いつ買ったのかも忘れちまった骨董品だけどよ」
ミナトは手渡されたポーションを一息に飲み干す。
「んっ、剣が刺さったまま他人の心配するの超シュール。抜きたい」
「ダメに決まってるでしょ、素人が傷口広げてどうするのよ!!ここは回復魔法も使える天才賢者である私が、二人ともパパッと天国送りにしてあげるわ」
「それだと、二人ともあの世行きことになっちゃうけど!?…………ありがとうございます、だいぶ痛みは引きました。デボラさんはコレを使ってください」
ミナトが懐からシャルロッテに貰った高級ポーションを取り出す。
「お姫さんから貰った王室御用達の逸品か。オレのポーションじゃ自殺するようなもんだが、これならイケそうだな」
「逝けそう?」
「縁起でもないこと言わないで!!」
「まったく、笑えねえ冗談だな。まっ、あながち間違ってねえけどよ。わざわざ自分で傷口を開くんだからなっ………………くうっ!!」
デボラは酒が入った分厚い革袋を噛むと、剣に手をかけゆっくりと引き抜く。
「えっ、ちょ、ちょっと、何するつもりよ!!あっ、キャーキャーキャー!!!!!やめなさいよ、死ぬわよ!!怖いから、やめてって!!」
カランッ
赤黒い液体に覆われた細剣が床に転がると、刃で抑えられていた傷口から多量の血が溢れ、すさまじい勢いで服を朱に染めていく。
デボラは出血を丹田に力を込め強引に止めると、ポーションを半分傷口にかけ、残る半分をグイと喉に流し込んだ。
すると、古い布切れが破れたかのように腹に開いた大穴はみるみるうちに塞がり、青白くなっていたデボラの肌に赤みが戻る。
「ふうっ、どうやら冥府の門をくぐるのは、まだまだ先で良いみたいだぜ。じゃあ、落ち着いたところで、特等席でふんぞり返りながら命のやり取りを観戦した感想を聞かせて貰おうか、エクリウスさんよぉ」
デボラが大戦斧で差した先には、満足げに微笑み、両者の健闘を称えるように手を叩く老人の姿があった。
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