真理の扉
「えっ、ごめん、エルム。話が見えないんだけど………」
「はぁ、これだけ懇切丁寧に嚙み砕いてあげても理解が追いつかないとか、頭蓋骨に海綿体以外詰まってないの?いい、敵の狙いは単純明快、より能力の高い冒険者の捕獲よ」
「冒険者を捕まえること自体が目的ってこと?」
ミナトはエルムの言葉の真意をつかみ取ることができず、鸚鵡返しをすると顎に指をあて考え込む。
「そうよ。ゴブリンを使って近隣を荒らしまわって、討伐に来た冒険者を捕まえる。貴方達冒険者は本能的にゴブリンを見たら追いかけちゃうんでしょ?理性のない獣みたいな行動パターンを狙い撃ちにされたわけね」
「くっ、否定したいけど、強ち間違いとも言い切れない!!」
「なるほどな、単なる妄想だと思って話半分に聞いてたが、嬢ちゃんの説も一理ありそうだ。やたら数だけ多いゴブリン共も、冒険者の選別をしてるって事なら理屈は通る。そこまでして腕利きの冒険者を集めてる理由は………まあ碌でもねえことなのは想像がつくな。で、そこまで知ってるお嬢ちゃんは、なんの目的があって敵の罠にわざわざ嵌ったんだ」
「へっ?………そ、そんなの、決まってるでしょ。そう、あれよ、あの………虎穴に入らずんば虎子を得ず、わざと捕まって世界を巻き込む陰謀を、敵の首魁ごと一網打尽にしようって算段よ」
「つまり、この迷宮の最奥にボスがいるんだね」
「いないわ、本当に人間ってバカね。この規模の大掛かりな魔方式を組み立てられる魔法詠唱者が、わざわざ現場に出向くなんて危険を冒すわけがないでしょ。そう、私が一度敵の罠に落ちた振りをしたのも、それが理由なの。慎重なモグラを捕まえるための農夫の知恵を真似たのよ。洞窟と迷宮が繋がってるように、迷宮と敵の真の本拠地も繋がってるはず。存在しない扉なら、相手に開かせればいいの。つまり、こういうこと………デクタ ホルイグ ウェリア クイアーナ………エルド ピィティズ クラウバイジュ エリリアトルルフ…………エクイムジア トーラ!!!真なる言の葉に導かれし八眼の鴉よ、糸巻車の紡ぐ午睡を辿りて示せ!!!!」
杖が大理石の床を突き、紡ぎだされた真言が世界に満ちる。
「んっ、文字が飛んでる、意味もなくサングラスかけたくなる」
ミナト達の視界にはあらゆる言語、あらゆる文字が浮遊し、激しい明滅とともにとめどなく生まれ、円環の一部となって消えていく。
「世界を構成する要素を文字に分解してるんだよ………。真言………吟遊詩人の英雄譚で聞いたことはあったけど、伝承通りハイエルフは本当に幽世の現世を繋げられるんだ………」
「ミナト、ちょっと痛い、とりあえず右手に包帯巻く?」
「いや、そういうのじゃなくて、魔術書にも載ってる有名な話だからね!?あっ、エルム………」
渡り鳥が営巣地を求めるように、言葉がエルムが作り出した時空の狭間へと還っていく。
真言により開かれた世界は何事もなかったかのように消え去り、延々と続く大理石の廊下は先ほどよりも一段と冷たい表情でミナト達を睨む。
「どうだった?」
「行くわよ、この先に貴方達が求める答えが………いえ、始祖なる神々が示したこの世界の真理の一片があるから」
「世界の真理………」
唾を飲み込む音がやけにうるさく聞こえる。
口内はカラカラに乾き、身体にまといつく空気までもが重くのしかかった。
「ミナト」
肩に触れた手の温もりがミナトの意識を引きもどす。
「リオ………」
「んっ、カッコつけてるとこ悪いけど、詠唱失敗してる。その証拠に耳真っ赤、失敗エルフの厨二詐術。私じゃなきゃ見逃してた」
「えっ、いやだって、明らかに成功した風な………ねっ、開いたんだよね、扉的なものが!!幽世と現世を分かつ真理の一端が!!」
「………風が、騒がしいわね………」
「いや、吹いてないから、洞窟だからね、ここ!!エルム!?エルムってば!!」
縋るような声を無視し、エルムはどこからか取り出した鳥の羽にフッと息を吹きかけ、それが舞うのをジッと見ていた。
すべてを見透かすようなその澄んだ瞳とは対照的に、長く尖った耳は熟した果実のように艶やかな赤みを帯びていた。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
最後にそれっぽいことを言ったものが正しいみたいな雰囲気、会社で働いてても普通に有効なのが怖いですよね(実話)




