名探偵エルム
デボラと合流し、さらに歩を進めること数十分。
自然がそのまま切り出されただけの岩肌はいつしか滑らかに磨き抜かれた大理石となり、粗末な松明は丁寧な意匠が刻まれた豪奢なランタンにその役目を取って代わられ、もはや洞窟というよりかは迷宮といったほうが適切な様相を呈している。
道中に幾度もゴブリンと遭遇し、その度に殺し、さらに先へと急いだが、旅路は一向に終焉を迎える気配はなく、むしろ深淵へと招かれるような表現しがたい不安感が一行を包み込んでいる。
「ちっ、こりゃ嵌められたかもな」
デボラは不快気に吐き捨てると、大戦斧を杖代わりにその巨躯を預け、大きく一つ息をつく。
「んっ、説明求む」
「まだ確かなことは言えないけど、この洞窟自体が魔法で出来てる、もしくは途中から違う場所に繋がるように、大規模な転移魔法がかけられてるかもしれないって事かな。推測に過ぎないけどね」
リオの問いにミナトが応える。
「なんか凄そう」
「凄いなんてものじゃないよ。転移魔法は数ある魔法の中でも最上級難度とされてるんだ。単純に人を一人遠くに移動させるだけでも、ミスリル級の魔法詠唱者が、数人がかりで複雑な儀式魔法を経て、ようやく発動するような高度な大魔法なんだよ。仮に本当に洞窟自体に転移魔法がかかってるなら………国家レベルの儀式魔法か、それとも六大魔公が関わってるかもしれない………」
六大魔公という言葉に、エルムがビクッと身を震わせる。
「デコイ代わりにゴブリンを使うような計画を、まともな国が主導してるとは思いたくねえなぁ。まっ、帝国辺りなら何やってても驚かねえが、六大魔公が一枚かんでるって言われたほうが、まだ気楽だぜ」
「ふ、ふふふっ、やっぱり私が予想してたとおりねっ!!」
「エルム、どういうこと?」
「分からないの?簡単なことよ、ゴブリンの巣はダミーってこと。人間にはちょっと難しいかもしれないけど、エルフの、特に私のような明晰な頭脳と豊富な知識を持つ天才的ハイエルフなら、容易に導きだせる結論ね」
「ダミーって?」
ミナトは一人納得するエルムに問い返す。
「仕方ないわね、一から説明してあげる。まず、この洞窟自体が魔法で作られてるって可能性はないわ。これだけ広範囲に魔法を展開するだけでも大変なのに、ゴブリンが日常的に利用できるレベルで維持するのは六大魔公だって無理よ。それに神託の勇者を閉じ込めるためっていうならともかく、ゴブリンの拠点にするために魔法で洞窟を作る意味がないもの。普通の洞窟を使えばいいだけだし………なによ、何か言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「んっ、神託の勇者なら、ここに………」
「いやっ、気にしないで」
ミナトはリオの口を両手で塞ぎ、エルムに続きを促す。
「おそらくこの転移魔法は、洞窟と迷宮を繋ぐだけのものよ。洞窟の特定の場所に転移門を設定して、そこを通り過ぎた生物を自分のテリトリーに引き込む手法ね。それなら最小限の魔力で維持できるし、仕組み自体もシンプルで汎用性があるわ。一度魔方式を構築すれば応用は難しくないから、ここ以外に幾つもの場所と繋がってるんじゃないかしら」
「んっ、疑ってたけど、本当に魔法詳しそう。魔法オタ、陰キャっぽい」
「陰キャってなによ、悪口でしょ絶対!!………まあ、私レベルの魔法詠唱者であれば当然この程度の罠は簡単に気づけるけど、貴方達じゃゴブリンとか洞窟自体に気を取られて、転移したことを認識できないのも無理はないわ。他者を転移させるのは一種の状態異常系の魔法みたいなものだから、人によっては精神抵抗が働いて転移が失敗するけど、今回みたいに自ら洞窟の奥に進む意思がある場合、無意識のうちに転移魔法を受け入れてることにもなるの。ゴブリンで釣って、餌にかかった冒険者を高確率で転移させる………野蛮な人間の習性を熟知したやり口ね」
「なんだぁ、お前罠に気づいてたのに言わなかったって事か!?いくら何でもちょいとばかし問題じゃねえか、それは」
「な、なによ、別に私が気づいたことなんだから、教えようが黙ってようが勝手でしょ!!」
「まぁまぁ、デボラさんも怒ってるわけじゃないんだよ。でも、仮に何者かがボク達を転移させたのなら、目的はなんなの?」
「そんなことも分からないの?敵の目的………それは『私』よ!!」
エルムはそう言うと、薄い胸を張り、誇らしげにポーズを決めた。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
やはり貧乳エルフこそ至高にして王道!!




