ゴブ彦、死す
「それにしても、何処で別れちゃったんだろう。一本道だったはずだから、声をかけてたつもりだったけど、少しずつ離れたのかな。脇道がないか確認しながら戻るけど、リオも異変がないかチェックしてみて」
そう言い振り返ったミナトの視界に、両手に花と言わんばかりに2匹のゴブリンと手を繋ぐリオがすっぽりと収まる。
ゴブ彦は相変わらずの愛想笑いを、もう一匹のゴブリンは少しはにかんだような微笑みを浮かべ、1人+2匹が並ぶ姿はまるで仲睦まじい兄妹のような雰囲気すら感じさせる。
「ごめんね、リオ。ボクの勘違いだったら申し訳ないんだけど………増えてない?」
「んっ、犬は一匹だけで飼うと社会性が身につかないらしい。情操教育のためにも、二匹は欲しいところ」
「その理屈はおかしいからね!?」
「ミナト、ペット飼ったことない人?」
リオが憐憫の眼差しをミナトに向ける。
「いや、犬の社会性が云々の話は置いといて、この状況は何もかも間違ってるから!!仮にゴブ彦は100歩譲って変身したエルムの可能性があるとして、そっちの新顔は100%純粋なゴブリンだからね!?もう濃縮還元200%なレベルで敵だから!!」
「エルムが分身してる可能性」
「流石にないから!!」
キャーーーーーーーッ!!!!!
激論を交わし合う二人の耳に、悲鳴が反響する。
「んっ、助けを求める声。リオ、ゴブ彦、ゴブ美、無理なタイプなエルフにジェットストリームアタックを仕掛ける」
「いや、誰目線!?くっ、他にも色々ツッコミたいけど、時間がない。今はエルムを助けることを優先しよう!!」
リオを先頭に洞窟の暗闇を縫うように3つの影が地を滑るように駆け、ミナトは様々な想いを抱えつつ警戒を切らすことなく殿を務める。
「なによ、何なのよ、いつの間にリオと入れ替わったの!?こ、こないでよっ!!」
先ほどとは異なり、明確な害意をもって武器を振るうゴブリンを、エルムは杖で殴りつける。頭から血が流し逆上したゴブリンは、非力な腕で錆びたブロードソードを大上段に剣を構え、エルムめがけ振り下ろそうとする。
「エルム、伏せて!!」
ミナトの声にエルムがしゃがみ込むと、投げナイフがゴブリンに喉元を貫き、そのままエルムに抱きつくように息絶えた。
「ひんっ!!」
「んっ、無事救出」
「どこをどう見たら無事なのよ!!服に血が飛んだんだけど!?弁償ものなんだから!!あと、また助けてくれてありがとう!!」
「相変わらずお礼のタイミング!!でも良かった。今回は偶然間に合ったけど、奥に進めばもっと強力な敵が出てくると思う。はぐれないよう、ずっとリオの手を握ってて。………あと、リオ、こうしてエルムが見つかったんだ。残念かもしれないけど、ゴブ彦とゴブ美は………」
「んっ、始末した」
リオが2匹のゴブリンの首を無造作に地面に転がす。
「………えっ?」
「またつまらぬ物を斬ってしまった」
「………えっ??」
「ゴブリン死すべし、慈悲はない」
胴体を失った2匹の哀れなゴブリンは、先ほどまで浮かべていた微笑みが嘘だったかのような苦悶の表情と共に、恨みがましい目でミナトを見つめている。
「いやいやいやいや、さっきまであんなに仲良さそうにしてたよね!?ずっと飼うって言ってたよね!!??」
「ミナト、情が移るのも分かるけど、所詮ゴブリンは害獣。人とは相容れない生き物。躊躇、ダメ、絶対。きっちり駆逐すべき」
「切り替えの早さおかしくない!?半分サイコパスだよ!!」
「んっ、ミナト、動揺しすぎ。ショックを和らげるためにも食べて供養」
「間違いなく呪われるから!!冗談でもそういうこと言っちゃダメだから!!」
「味の問題?」
「倫理的な問題だよ!?………はぁ…………自分でも何がしたいか分かんないけど、ゴブ彦、ゴブ美、せめて安らかに………」
ミナトは抱きかかえた胴体を、生首となったゴブ彦とゴブ美の前に供え物のように配置し、両手を合わせる。
「えっ………私が離れてる間にゴブリンと何があったの?怖いから、どう反応すればいいか正解教えて??」
平然と佇むリオ、ゴブ彦ゴブ美に祈りを捧げるミナト、狼狽するエルム。
三者三様の感情をその場に残し、一行はデボラのもとへ、そして洞窟の奥で待ち受けるだろう敵を目指し、再び歩き出した。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
ゴブ彦レギュラーメンバーにしたかったです………




