奇襲
「お前ホントに大丈夫なんだろうな?土壇場でひぃこら泣き出しても、構ってやれねえぞ」
「お前じゃないわ、エルムよ!!ほんっとうに人間って頭が悪いのね、名前ひとつ覚えられないのかしら!?」
「このクソガキ、目上の人間に対する口の利き方ってやつを、一から仕込んでやる必要がありそうだな」
エルムの生意気な態度に、デボラが呆れたように言う。
「エルム、そろそろ敵のねぐらも近いから声は小さくね。………デボラさん、先行して状況を確認してきます。ここで待っててください」
ミナトはそう言うと、ひとり森へと消えてゆく。
「ミナト一人、ちょっと心配」
「ミナトの本職は斥候だ、ヘマはしねえよ」
数分が経つと森の奥から何回か光が反射し、それを合図にデボラに率いられた3人が奥へと進んだ。
「どうだ、ミナト」
「あれだけの数の見張りが戻ってきてないのに、何事もなかったみたいにのんびりしてます。よほど戦力に自信があるんでしょうね。自分達が奇襲を受けるなんて、これっぽっちも思っていないみたいです」
視線の先には、地龍が大口を開けているかのような巨大な洞窟の入り口が見える。
その正面には見張りのゴブリンが5匹ほどいるが、油断しきっているのか、欠伸を噛み殺すもの、何やら口に入れ咀嚼するもの、意味もなく槍で地面を掻くものと、およそ警戒のていをなしていない。
「こりゃ、いよいよ当たりだ。ここが敵さんの本拠地で間違いねえな。どうする、ミナト、外の見張りの数は大したことねえ。始末してから、迎撃体制が整う前に中に奇襲をかけるか?」
「そうしましょう。見張りの処理はボクに任せてくだ………………エルム、何してるの?」
ミナトは隣で何やらブツブツと呟くエルムに声をかける。
「まさか、魔法を使う気!?ダメだよ、今はまだ不味い………」
「火球!!」
詠唱を続けるエルムの口を塞ごうとした刹那、突き出された杖の先から巨大な炎の塊が射出され、着弾と同時に激しい爆発が起こる。
強烈な熱風が百メートル近く離れた位置にいるミナトの肌を灼き、周囲には肉が焼けこげた嫌な匂いが立ち込める。
濛々とあがる黒煙が晴れると、そこには消し炭となったゴブリンの死体が散乱し、エルムはその光景を確認すると頬を綻ばせた。
「ふ………ふふんっ、どう、私の実力が分かったでしょ?超超超一流の魔法詠唱者にかかれば、ゴブリンなんて相手にもならないわ」
「おいっ、アホガキ、何してくれたんだ!!サクッと飛び道具で片づけるならともかく、あんな爆音たてたら、いくらあいつ等が間抜けだからって気づくだろうがよ!!」
「んっ、奇襲というより宣戦布告」
「は、はぁ!?まさか、こんな下等生物相手に騙し討ちみたいな卑怯な真似をしようとしてたの?信じられないんだけど!!」
「………ちっ、しょうがねえ、相手に余計な悪戯を考えさせる暇を与えると不味いな。ミナト、突っ込むぞ!!」
「はいっ!!リオ、エルムを守りながらついて来てもらえる??エルムはボクの夢のために必要な人材だから」
ミナトが目くばせをすると、リオは少し首を捻ったあと、グッと親指を立てた。
「んっ、ミナトの夢のためなら仕方ない。無理なタイプのエルフ、私から離れないように」
「エルムよ、エルム!!言われなくたって私も行くわ。貴方こそ、足手まといにならないよう気を付けなさい」
4人は一斉に入り口の向かい駆けだした。
中に足を踏み入れると、何かが腐ったような刺激臭が鼻をつく。
洞窟の天井はデボラでも身を屈めず進むことが出来るほど高く、幅は4人が並んで歩けるほど広い。地面は雑ではあるが均され、荷車が運び入れられた轍が刻まれており、壁際には等間隔に篝火台が置かれ、真新しい松明が暗闇を煌々と照らしている。
表であれだけの大爆発があったというのに、内部は異常なまでに静まり返り、物音ひとつ聞こえず、それがかえって不気味さを醸し出している。
十分ほど歩いただろうか。
最後尾を行くエルムは徐々に悪くなる足場に苦戦しながら、所々に見せしめのように飾られた人の頭蓋骨に身をすくめつつリオを後を追う。
「誰もいないじゃない。さっきので全部倒しちゃったんじゃない?あ~あ、せっかく少しは手応えのありそうな敵に会えるかと思ったのに、期待外れね。………ねえ、何か言いなさいよ。ねえってば……………もう、何よいきなり手を握ってきて、怖くなったの?怖いならハッキリ言いなさいよ。私がもっと近づいてあげても………痛っ!!」
エルムはリオの手を引っぱろうとして体勢を崩し、地面に尻餅をつく。
「ちょっと、もう少しピシッと歩きなさいよ!!少し強く引いたくらいで転んで…………えっ??」
エルムは握っていた手を反射的に離した。
グチャリと言う音とも地面に転がった腕は、根元から千切れ、その先には誰もいなかった。
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ちょっとホラーですね




