敗北の代償
「あら、もう終わり?派手に登場したわりには呆気ないのね………いいわ、そいつらは好きにしなさい。ただし、あっさり殺すのはなしよ。ちゃんと観客がいるんだもの、一生忘れられない素敵なショーにしましょう」
「う………あ………ああぁぁぁあああああ!!!!!!!やめて、食べないで!!!!!指、私の指!!!!!!やめで!!!!!!!!!!」
昏倒したアルテがビクンと身体を震わせると、悪魔達から一斉に笑い声が広がった。
白く細い、およそ冒険者とは思えない指が、一本ずつ、指先からゆっくりと食いちぎられ、咀嚼される。剣を振るうための、自らの力の源が、一本ずつ失われていく様を間近で見せつけられ、アルテは懇願と怒声が入り混じったような濁った声を肺から吐き出した。
「神よ、どうか、どうかお助け下さい………………………ひぃっ!!」
穴蔵に閉じこもるように自らの周囲に何重もの結界を張り巡らせた女神官を、神の奇跡により作り上げられた透明のベール越しに悪魔達が覗き込む。
その鋭い爪先がカリカリと結界を引っ掻くと不快な金切り音を奏で、言い知れぬ恐怖が視界を閉ざすように膝を抱える少女の心を削っていく。
薄く削れていく精神に比例するが如く、結界は乾ききったセミの抜け殻のようにパリパリと音を立て崩れてゆき、長く鋭く尖った爪がとうとう少女の皮膚に喰い込んだ。
「いやぁ!!!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、逆らう気はなかったんです!!!!許してぇ!!!!!!」
少女の悲痛な呼びかけに対し、アルベラは口の端を僅かに動かすことで応え、それを合図に悪魔達は我先にと群がった。
純白の法衣はこれみよがしに引き裂かれ、その下に隠れていた白い肌は赤く染まっていく。一体の悪魔が足を抑えつけ上から覆いかぶさると、少女の視野から光が遮られ、同時に声にならない呻きが漏れ、平原に深紅の染みを一つ足した。
悪魔達が何かを訴えるかのように自らの主人を見ると、アルベラは最早興味がなくなったのか、再び霧となり既に抵抗することを止めた少女達の元に降り立った。
「刺激的な初体験だったみたいね、死ぬ前に良い思い出を作ってあげられて嬉しいわ。…………さてと、アルテとか言ったかしら」
アルベラが痛みに身を震わせるアルテの顔を覗きこむ。
「貴方如きが神託の勇者とは思えないけど、こんな大層なものぶら下げてるんだし、それなりに名が通った冒険者なのよね。もう剣は二度と握れなくなっちゃったみたいだけど、どうする?私の足を舐めるなら貴方だけ助けてあげてもいいのよ。貴方だって依頼を受けただけで、別に私に恨みがあって来たわけじゃないでしょ?私も貴方に興味ないもの、這いつくばって許しを乞う人間を、更に蹴り上げるほど悪趣味じゃないわ。指だって、治してあげてもいいのよ。ほらっ、どうする?」
悪魔達はアルテの腕を捻り上げ、顔を湿った地面に押しつけながらアルベラの靴の前まで持っていく。
アルテは瞳を上に向け、アルベラの表情を窺うと、最早悲鳴をあげることすらなくなった仲間をチラリと見やり、媚びるような笑みを浮かべ靴先を舐めた。
「賢明な判断ね、賢い子は嫌いじゃないわ」
その言葉にアルテはホッとしたように息をつく。
「でも、やっぱり、ダ~メ」
アルベラは悪戯っぽくアルテの頬を指でつつくと、そのまま指を右肩に当て、スッと脇まで動かした。
「えっ?」
アルテの疑問は激しい痛みにより霧散した。右腕がボトリと落ち、血が噴き出す。
「あああああっ!!!!なっ、なんでっ、助けてくれるって……………」
「ワタシは足って言ったでしょ?貴方が舐めたのは靴。悲しいすれ違いってやつね。でも、どうせ戦う気がないわけだし、手足がついてても無駄でしょ?安心しなさい、ワタシが剪定して二度と戦わなくてもいいようにしてあげるから」
「ぐっ、がぁっ!!!!!!!!!!!!!!」
左腕が、右足が、左足が、まるで子どもが虫の手足をもぐかのような気軽さで胴体から切り離され、回復魔法でも二度と戻らないよう、切断面が念入りに焼かれる。
「可愛い芋虫さんの出来上がりね。ふふっ、ミナト、待たせてごめんなさい。退屈してたでしょ?それとも、ワタシのショーに釘付けだった?」
アルベラがミナトに歩み寄り、優しく頬を撫でる。
冷たくしなやかな指先には、濃厚な血と死の臭いが染みついていた。
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