罠
「おはようございます、ミナト様」
「おはよう、アルシェ。………あれ、たしか昨日は………あっ………」
ミナトは上半身を起こし、記憶の糸をたぐるように辺りを見回す。
「昨晩は大変よくお休みになれたようで何よりです。夜伽に侍った甲斐があったというものです。私がわざわざあられもない姿となりマッサージをしているなか、そんな事にはお構いなくとてもよい夢をご覧になられたようで、これに勝る喜びはありません………チッ」
「いま舌打ちしなかった!?怒ってるよね!!」
「ああ、ミナト様は私に興味が無いようですので…チッ、ご存知ないかと思いますが……チッ、これは獣人が言いたいことも言えないそんな世の中に絶望した際に………チッ、奥歯に詰まった想いを除去するための種族特性ですので…………チッ、どうかお気になさらず……………チッ!!」
「会話に支障きたすレベルで特性出てるよ!?気づくから、日常生活でそれ出てたら、幾ら鈍感なボクでも気づくから!!」
「鈍感には同意します。では、いつまでも下手な冗談でご迷惑をかけるのは本意ではありませんので、私はひと足先に仕事に行きます。ごゆるりとお支度ください」
アルシェは深々と一礼すると、ぎこちない足取りで天幕を後にした。
「んっ、ゆうべはおたのしみでしたね」
突如背後からかけられた声にミナトはため息をつく。
「リオ………はぁ、ごめん、いまは自己嫌悪でツッコむ余裕もないかも」
「それは『昨日頑張りすぎて、もうこれ以上出来ないよ〜』的な自慢とセクハラを兼ねた大技?明らかに大人の階段をスルーして、軌道エレベーターで宇宙進出した証拠。異世界ハーレムsaga完結」
「違うから!!………色々と致命的に選択を間違った気がするけどね。でも、いつまでも引きずってる場合じゃないし、いま出来ることを頑張るよ。それで、リオは何か用事?」
「アルベラが呼んでる。頼みたいことがあるらしい。王を顎で使おうとする奸臣ムーブ」
「ははっ、遠慮されるより、気軽に声をかけてくれた方が嬉しいよ。それに昨日みたいにジッとしてるのは性に合わないからね。出かけられる用事なら特に大歓迎かな」
ミナトはそう言い、リオを共にアルベラの待つ天幕へと向かった。
「はぁ、アルベラは人使いが荒いなぁ………」
「さっきと言ってる事が違う。二枚舌系男子。二枚舌………夜が凄そう」
「おいおい、ピクニックに来てんじゃねえぞ。そろそろ敵さんのアジトも近いんだ、ちっとは緊張感持ってくれよな」
デボラの言葉にミナトの顔が引き締まる。
昼なお暗い森の中、視線の先には延々と獣道が続き、時折行く手を遮る木々を剣で払い、また進む。
ミナト達はアルベラとの会議のあと、先日村を襲ったゴブリン達の本拠地と思われる大洞穴を目指していた。
先日の一戦で敵の戦力は大きく削がれ、また逃散した者には特大のトラウマを植え付けたことで、当面攻勢はないとは思われるが、魔物の行動は時に人の想像を超える。
人に理があるように、魔物は魔物の理で動いているのである。
ゆえに、これを機に徹底的にねぐらを叩き、近隣の村々の安全を確保する必要があるという結論に至ったのだ。
「でも、なんでゴブリン討伐にミナトとデボラが選ばれたのか不明。アルベラ流迷采配」
「ははっ、確かにボクは頼りないかもしれないけど、敵の本拠地を奇襲するような任務は得意なんだよ。パーティーを組んでた時は、どちらかというと斥候の役割を負うことが多かったしね。ゴブリンも徒党を組むような規模になると、罠を張ったり見張りを置いたりもするから、経験が物を言うんだ」
「デボラは明らかに向いてない」
「おいおい、舐めて貰っちゃ困るぜ。これでもギルド長なんざガラでもねえ役職に就く前は、ジェベル一の冒険者って謳われてたんだ。ゴブリン共が張った罠如き、ちょちょいのチョイよ。罠にも虎バサミに落とし穴、括り罠から毒矢まで腐るほどあるが、一番多いのが鳴子だな。お前みたいな素人には分かんねえと思うが、こういう場所にだって仕掛けられてるんだぜ。まっ、まともに前見て歩いてりゃ、ゴブリン如きが設置した罠なんざ引っ掛かるバカはいねえけどな」
「んっ、ミナト、気を付けるように」
「リオこそ、ちゃんと前見てね」
ガラガラガラッ
突如鳴り響く鳴子の音に後ろを振り返ったミナトが見たものは、顔にこれでもかと糸を巻き付けたリオの姿だった。
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罠はかかるもの




