異世界ハーレムSAGA・完結
「いかがですか。痛くはないでしょうか」
「うん、大丈夫だよ、凄く心地いい。アルシェは何でも上手なんだね」
うつ伏せになったミナトの背中を、アルシェの細い指が程良い力で揉みほぐしていく。
ミナトは油断すれば重力に逆らおうとする自らの分身を鉄の意志で抑えつけ、真っさらな心でマッサージに集中する。
ともすれば、腰に乗る柔らかな感触、時折触れる滑らかな肌の温もり、冷たい空気に震わせる微かな吐息に肉体が反応し、自制心という箍が外れそうになるが、ミナトは深呼吸をし、心の中で冒頭部分しか知らない般若心経を唱え続けることで、悟りの境地に辿り着こうとしていた。
「お褒め頂きありがとうございます。宿のお客様も上手いと喜んでいたので、才能があるのかもしれません」
「………えっ?や、宿のって………?」
「はい、私がご奉仕した方々の話です。ミナト様もご存知の通り、ギルドには宿が併設しておりますし、そういった需要も多いので、私のような年頃の給仕は食事だけでなく、そちらの欲求も満たす必要がございます。………もしかして、ご存知なかったのですか?」
アルシェはまるでそれが周知の事実であるが如く語る。
「あ………そ、そうなんだ。なんとなく、噂でそういう事をしてるギルドがあるってのは、聞いたことがあったんだけど………その………そういうのはデボラさんが許可しないかなって思ってた………」
ミナトは努めて冷静を装うが、声は上ずり、語尾は明瞭さを欠いた。
「………仰りたいことは分かります。私も給仕の身でそういった事もしなければならないという事実を知った時、戸惑いが無かったかと言えば嘘になります………」
アルシェは少し言い淀む。
「ですが、冒険に疲れ、癒しを求める方々に奉仕するのは、私のような自分自身で他人を救えない者にとって、人助けのお手伝いを出来る唯一の手段だと思っています。ですので、私は自らの行為に恥じることはありません。ミナト様、私は間違っているでしょうか?」
「………ううん、間違っていないと思う。ごめんね、ボクはいまアルシェに、そんなことしちゃダメだって言おうとしてた。自分を大事にしないとダメだって。でも、それはボクの身勝手な思いだ。アルシェの考えも知らずに、ボクの我儘を押し付けるところだった………本当にごめん」
ミナトが絞り出すように紡いだ言葉には、真摯な謝罪の意が込められていた。
「良いんです、シンギフ王国では女性が多いですし、他の方に任せられますので、私も本来の給仕の仕事に専念できます。アルベラ様はとてもお上手でしょうし、ルーナ様の下半身なんかは、とても具合が良いと思います。リオ様も意外と乗り気で楽しんでくれそうです」
「えっ!?い、いや、ここではそういうのはどうかな??………ほらっ、村の人達の人間関係を悪くするかもしれないから、やめた方が………」
「女性へのマッサージがどうして人間関係を悪くするのですか?」
「えっ、女の人への!?………………あぁ、そっか、そうだよね、うん、確かに悪くないかも」
「ミナト様、いったい私が何をしていたとお思いだったのですか?まさか、私がクズばかりな事で有名な男性冒険者に下着姿でマッサージをしていたり、その先の行為までして、お金を貰ってしていたとでもお思いだったのですか?」
「いや、違っ……………ただ、そうだったら嫌だなって、あっ、そういう意味ではなく………ごめん」
ミナトの身体から急速に力が抜け、緊張と興奮で固くなっていた筋肉が弛緩していく。
「いえ、紛らわしい物言いをした私にも問題がありますので、気にしておりません。ミナト様、ご安心ください、少なくとも私は経験がございません。むしろ、ミナト様こそ、そういった場所を利用された経験がお有りでは?」
「ないよ、ホントにないから!!」
「一般的には必死に否定する場合はかえって怪しいというのがセオリーですが、ミナト様に関しては言葉通りなのでしょうね。しかし、デボラ様も『漢なら飲む打つ買うときて、初めて卵の殻が取れたってもんよ』と仰ってましたし、国王ともあろうお方が世継ぎの作り方すら知らないのは問題ではありませんか?」
「う、うん………そうかな………」
アルシェは無言で横たわるミナトの背中に一層密着しながら、両腕を揉みほぐす。
指先を通じミナトの熱が伝わり、アルシェはその熱を感じるため、より繊細に、より丁寧に、その細く引き締まった身体を癒していく。
「私も先日のような形で女にされていたらと考えると、虫唾が走ります。早く済ませたいわけではありませんが、出来るなら身近で安心できる方であれば、恐怖や痛みも少なく終わるかと………。言ってみれば訓練の一環のようなものですし、経験を積まなければ相手を満足させることは出来ないと聞きますし………。あくまで練習ではありますが、もしよろしければ私がお付き合いしま……………ミナト様?」
アルシェが背を押す手を止めると、微かな寝息が聞こえた。
「寝たふり………ではなさそうですね。ミナト様、本日は本当にお疲れ様でした。ゆっくりとお休みください」
眠るミナトの頬にアルシェが優しく口づけをする。
その日ミナトが見た夢は、暖かな陽だまりの中で一人の少女と共に川を泳ぐ、不思議で幸せなものだった。
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マッサージされると眠くなりますよね(このシチュエーションで眠くなるとは言ってない)




