夜伽
「はぁ、疲れた………」
リオ達との食事を終え、一人になったミナトは、これまでその小さな肉体を支えてきた虚飾を脱ぎ捨てるように呟いた。
王として、男として、情けない姿は見せられないと気を張ってはいるが、ミナトの身体には確かな疲労が蓄積されており、手足の筋は強張り、肉には血が澱となって溜まり、枷のように行動を制約する。
眠りたい、身体はそう叫んでいるが、一方で脳は爛々と冴え渡り、肉体が休息を取ることを拒絶していた。
「食料か………アルベラの言う通り、問題は山積みなんだよなぁ………」
ミナトは先ほどのやり取りを思い出し、深いため息をついた。
「どうしよう、こんな事になるなら、もっと勉強しておけば良かった………」
木箱を連結させ、綿の入った布を被せただけの簡易ベットに寝転がる。
お世辞にも寝心地は良いとは言えないが、それでもこの王都において、一番良い寝具が揃っているのはこの天幕なのだ。
ミナトを信じ移住した村人達のこれからの生活の苦しさを思うと、余計に目は冴え、解決しない課題だけがぐるぐると頭の中を掻き回していた。
「ミナト様、夜分遅くに申し訳ありません、入ってもよろしいでしょうか?」
入口の方から聞き慣れた声が響く。
「ごめん、ちょっと待って………大丈夫だよ、アルシェ」
ミナトはベッドから立ち上がりと、芯まで溜まった疲れに耐えかねるように曲がった背筋をピンと伸ばし、はっきりとした口調で言う。
「失礼します」
アルシェはミナトの合図を待っていたかのように、音もなくスッと中に入ると、天幕の鍵がわりとなる紐を固く結ぶ。
「そっか、ちゃんと縛っておかないと不用心だったね。天幕は使ったことがあるんだけど、入口を閉じられるような立派なやつは初めてだから慣れてなくてさ。えっと………何か飲む?」
ミナトは突然訪れたアルシェに対する緊張を覆い隠すように多弁になると、返事を待つことなく水指を持ち木製のコップに水を注ぐ。
「ありがとうございます」
アルシェはコップを受け取ると、先ほどまでミナトが体を預けていたベットに腰掛ける。
「それで、どうしたの、アルシェ。村の人達と何かあった?」
「いえ、あれからミナト様を除いた女性達で集まりまして、今日は私が夜伽をすることになりましたので、伺った次第です」
「あぁ、そっか、夜伽をね………………えぇっ!?よっ………ゴホッガハッ!!」
驚きのあまり口に含んだ水を気管へと流し込んだミナトが、涙を流しながら咳込む。
「はい、夜伽です。相談したところ、リオ様が出席番号順で私が1番だと仰ったので、言葉の意味は理解できなかったのですが、私が来ること自体はすんなりと決まったのです。ご迷惑だったでしょうか。それとも、初めての夜伽の相手が私でガッカリいたしましたか」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど、いきなりでビックリしちゃって………」
「戸惑っているのは私も同じです。ただ、ミナト様の夢がハーレム作りである以上、私もある程度は覚悟していましたし、自らに課せられた責務を放棄するつもりはございません」
「いやいやいやいや、ハーレムってのはリオが言ってるだけで、ボクの夢ってわけじゃ………それに、当然そんなことを強制するつもりはないからね。アルシェは真面目だし優しいから、仕事だって考えて我慢して来てくれたんだと思うけど、無理する必要はないよ。リオ達も本気じゃないだろうし、明日ボクから言っておくから、今日は戻ってゆっくり休んで………」
沈黙。
気まずい空気が二人の間に流れる。
ミナトはなんとかしてアルシェの表情から考えを読み取ろうとするが、意図的に感情の発露を抑えているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、喜んでいるのか、まったく見当がつかなかった。
「ありがとうございます、ミナト様、優しいお気遣いいたみいります」
アルシェがペコリと頭を下げると、ミナトは自分の選択が間違っていなかったことに安堵し、頬を綻ばせる。
「それでは、私は一人虚しく自室に戻るといたします。皆様からは『わざわざなけなしの勇気を振り絞って夜伽に行ったのに、相手にもされず帰らされた女としての魅力に欠ける給仕』という目で見られるでしょうが、ミナト様の仰る通り強制ではないのなら来る必要もありませんでしたし、ミナト様もとてもご迷惑で扱いに困っていらっしゃるようでしたので、帰らせていただきます。お疲れのところ、余計な心労までおかけして、誠に申し訳ございませんでした。それでは、ごゆっくりお休みくださいませ」
「あっ、アルシェ、あのさ………」
凄まじい勢いでまくし立て、立ち去ろうとするアルシェの腕をミナトが掴む。
「なにか御用でしょうか?」
「もし良かったら、少しここに居てくれたら嬉しいなって。ほ、ほらっ、色々あって疲れちゃったから、冒険帰りにアルシェに話を聞いてもらってたみたいに、話したくてさ」
「………ミナト様のお役に立てるのでしたら喜んで」
そう言うアルシェの顔には、依然として怒りにも似た感情が見え隠れしていた。
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次回、異世界ハーレムSAGA始まる!?




