王の務め
「おいおい、こりゃまた随分な大戦果じゃねえか」
デボラは王都に続く細い道を埋め尽くす行列を目にして感嘆の声をあげる。
「んっ、初めての朝帰り」
戦いから一夜明け、ミナト達はすべての村人と共に王都に帰還していた。
怪我を負い自らの足で移動できない者や幼い子ども、足腰の弱った老人もいるため、軽傷の村人だけを引き連れ先発する案もあったが、再びゴブリンの襲撃がないと言い切れない事もあり、荷馬車や荷車を総動員しての集団移住となったのだ。
「随分色気のない朝帰りだこと。でも、あんまりふざけてる余裕はなさそうね。これだけの大人数を捌かなきゃいけないんだもの、悠長に一人ずつ自己紹介するって雰囲気でもないでしょ。何があったかは後から聞くわ、まずは怪我人をどうにかしましょう。アルシェ、貴方は怪我の程度に応じて、天幕に案内して」
「わかりました。時間が空いたら、それ以外の割り振りも決めて良いでしょうか。皆さんも、自分の居場所がハッキリした方が落ち着くかと思いますので」
「任せるわ」
アルシェはアルベラに一礼すると、近くにいた年かさの村人に声をかけ、怪我人収容のための準備を始める。
「次はルーナ。たしか奥の馬車にポーションがあったはずよ、それを天幕に運んで」
「え〜、またお仕事〜?も〜、不眠不休でくたくただよ〜」
ルーナは労働反対と言わんばかりにとぐろを巻くと、自らの下半身で作り上げた土管のような円柱の中にすっぽりと上半身を収める。
「さっきまで思いっきり寝てたでしょ。それに力仕事をさせようってわけじゃないわ。何人か力自慢の村人を下につけるから自由に使いなさい。でも、運搬自体は任せていいけど、馬車の中には入れないように。手癖が悪いのがいるといけないから。あと、ナーガなら知ってはいると思うけど、ポーションは貴重よ。命の危険がある怪我人だけに使うことね。判断は貴方に任せるわ」
「は〜い」
「村長は居るかしら?」
「あぁ、私がリーダーを務めているエッダだ、よろしく」
自分よりも年弱であろうアルベラに呼び止められたエッダは、戸惑いながらもその威に気圧され、直立不動の姿勢で続く言葉を待つ。
「ワタシはアルベラ。貴方は動ける村人を連れて、そこのデカ女に指示を仰いで」
視線の先には、男と並んでも遜色ない体格のエッダよりも頭数個ぶん背が高く、分厚い筋肉質な身体を持った女の姿があった。
「誰がデカ女だ!!オレはデボラ、よろしくな。見ての通り、王都とはいってもまともな家もねえ野営地みてえな場所だ。まっ、色々と勝手が違って戸惑うこともあるだろうが、とにかく人手は足りねえから、大歓迎だ。暇しない事だけは保証するぜ」
デボラはそう言うと豪快に笑い、エッダの背中を扇のような大きな手でバンと叩いた。
「落ち着いたらまた指示を出すわ。じゃあ、それぞれ持ち場について頂戴」
アルベラが一度パンと大きく手を鳴らすと、それを合図に道を埋め尽くしていた村人達は、各々割り当てられた場所へと散っていく。
それはあたかも羊飼いがシェパート・クルークを軽く振るうだけで、羊を手足のように動かす光景を思わせる、鮮やかな手並みであった。
「アルベラ、ありがとう。本当はボクがやらなきゃいけない事なのに」
「あら、お礼はベッドの上でお願い出来るかしら。それに、ミナトは国王でしょ?些事は私達に任せて、ミナトにしか出来ない事をすれば良いのよ」
「ボクにしか出来ないこと?」
「そう、ミナトにしか出来ないこと」
アルベラは妖艶な笑みを受かべると、ミナトの身体に手を回し、椅子の上にそっと下ろした。
「えっ、ボクにしか出来ないことって………」
「ええ、とりあえずは大人しく座ってることね」
アルベラはポカンと口を空けるミナトにヒラヒラと手を振り、その場を去る。
忙しく動き回る人の波の中に取り残される形となったミナトとリオは、その様子をただ眺めているしかなかった。
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今日はまったり箸休め回です。
次回からまた話が動き出していきます。




