満天の星
「………あれ、私は何をして……………ここは?」
「目が覚めた?安心して、被害を受けなかった家を一時的に退避場所にさせて貰ってるんだ」
ベッドの上で目を覚ましたエッダにミナトが優しく声をかける。
「………被害?………そうだ、ゴブリンは!?皆は!!」
「んっ、大丈夫。ゴブリンはほとんど駆除した。わざと逃がしたのもいるから、しばらくは来ないはず」
「来ないはずって、なんでそんな事が言える………ッ!!頭がっ!!………それに何か生臭い匂いがするような………」
「あっ、ほらっ、激しい戦闘だったからさ、返り血とか浴びたんじゃないかな。うん、きっとそうだよ」
記憶を呼び覚まそうと痛む頭を抑えるエッダに対し、ミナトは曖昧な答えで誤魔化す。
「………教えてくれ、皆は無事なのか?全員生きてるのか??」
エッダの問いかけに、ミナトは首を横に振った。
いまだ被害の全容が明らかになったわけではないが、少なくとも自警団として戦い参加していた者のうち12名の死亡が確認され、残りも全員が多かれ少なかれ傷を負い、治療を受けている。
女や子ども、老人などの非戦闘員にも犠牲が出ており、多くの村人が突如身に降りかかった災厄に対し、自らの不幸を呪う事しか出来ない状況であった。
「そうか………すまない、頼みがある。村中の人間を広場に集めてくれないか。私から皆に伝えたいことがある。あんた達にもね」
「………わかったよ。行こう、リオ」
空は既に満天の星に覆われ、柔らかな光が降り注ぐなか、広場の中央で煌々と燃え盛る焚き木の炎が周囲を赤く染め上げる。
広場に集まった村人は百数十人。歩けるようになったばかりの子どもや杖をついた老人、そして傷を布切れで覆っただけの怪我人の姿もあり、動くことの出来る村人全員が、エッダの言葉を心待ちにしている様子であった。
「皆に集まってもらったのは、他でもない。私達はジェベル王国から独立して出来た新しい国、ここにいるミナト国王率いるシンギフ王国に帰順する。そして、王都に移住して、この村を放棄する」
村を放棄するという言葉に、集まった村人に動揺が広がり、幾人かから不満の声が漏れる。
「皆の気持ちはよく分かる。何より、ジェベル王国からの使者を無視してここに留まり、自分達の力で生きていこうと決断をしたのは私だ。今回の一件、その責任は全て私にある。本当にすまない」
エッダは注がれる非難の目に臆することなく、自らの失策を認め謝罪すると、再び前を向き村人ひとりひとりの顔を見渡す。
「私達は弱い。私達だけでは生きていけない。その事実を、家族を、友を、仲間を失う前に気づきたかった。だが、私達は失った命のためにも生きなければならない。この村を守るために命を賭けた仲間のためにも、生きて未来に命を繋がなければいけない。王都に移住して、人を集め、力を蓄え、そしていつかこの村に戻ってこよう。それがこの村のリーダーとしての、私の最後の願いだ」
エッダはそう言うと一歩身を引き、ミナトに場所を譲った。
数百の瞳がミナトの小さな体に突き刺さる。ミナトはその重圧に一瞬怯みそうになったが、エッダから託された願い、そして村のために死んでいった者の想いに背中を押されるように、ゆっくりと口を開いた。
「ボクがシンギフ王国の国王ミナトです。こんな子どもが国王だなんて信じられないと思います。それはボク自身も同じです。けれど、王としてこの国を統治する以上、ボクは自分自身に課せられた使命から逃げる事だけは絶対にしないと約束します。どんな困難が立ちはだかろうと、仲間と、皆さんと、まだ見ぬ多くの国民と共に、最後まで戦うことを誓います。それが、今日散っていった尊い命のために出来る、せめてもの慰めだと信じています。もう一度言います、ボクは皆さんと一緒に、最後までこの命を賭けて戦い抜きます。だから、ボクについて来て下さい。同じ夢のために共に歩んでください」
静寂。
永遠とも思える沈黙が、ミナトの心に重く圧し掛かる。しかし、その静けさは一人の村人の拍手により破られた。
「命を助けて貰ったお返しだ、オレはミナト王についていくぞ!!」
力強い宣言。
それはミナトを櫓の上から援護した自警団の男から発せられ、次第にミナトの献身的な戦いぶりを間近で見ていた者達の間に広がり、そして村中に伝播していった。
いつしかミナトには万雷の拍手が送られ、辺境の小さな村の住民は、シンギフ王国という新興国の国民となることを決意した。
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ようやくまともな国民を迎えることが出来ました!!(開始から2か月以上経過)




