竜燐級冒険者
明日からはストックが尽きるまでは毎日1回更新です。
正月休みの間はストックがあるので、ご安心ください。(逆に言うと、正月明けにはストックなくなります………休み中に頑張らなければ)
「アルテ、残敵は粗方掃討した」
「私の方も大丈夫………だと思います。だけど、ごめんなさい、確認できた範囲では生存者はいませんでした………」
いまだ平原を覆う霧のなかから二つの影がアルテの元に加わる。
一人は女の獣人らしく、尖った毛に包まれた長い耳を持ち、2メートルを超える巨体の急所を僅かな軽装鎧で隠し、肩に戦槌担いでいる。
もう一人は女神官らしく、聖職者だけが身を包むことを許される純白の法衣を纏い、金の装飾に彩られたミスリルの杖を握りしめている。
「あれが今回の惨劇の元凶、六大魔公『金色のアルベラ』」
「うん………多分だけど、結構強いよ。まっ、私よりは弱いけどね」
「そ、それより生存者の治療を。ひ、ひどい怪我。いま治しますね………治癒」
女神官がミナト達を神の奇跡で癒す。
「二人を残して全滅か。弱卒が彼我の戦力差を考えず無謀な蛮勇を競った末路だ………下がってろ、仇は取ってやる」
「だね。ここからは私達に任せて。貴方達の頑張りを無駄にはしないから」
アルテの言葉にミナトはコクリと頷く。
そうだ、ボクは主人公じゃない。主人公でなくていい。
「あら、随分自信があるようね。竜燐級って確か一番ランクが上の冒険者だったかしら。人間って数百年経っても、やることは変わらないのね。せっかく遊びに来てくれたんだし、一番強い子と1対1で楽しみたいわ。ほかの二人は………そうね、これと戯れててもらえる?」
アルベラが髪を数本抜き、地面に落とす。すると、鈍い輝きとともに禍々しい魔法陣が現れ、数十体の最高位悪魔が召喚される。
「くだらん」
悪魔が顕現した刹那、獣人の女戦士が丘陵の下から跳躍し、召喚された最高位悪魔を蹴散らす。
「アルテ、六大魔公の首は早い者勝ちだったな。私が貰うぞ」
戦槌がアルベラの頭部めがけ振り下ろされ、グシャリという奇怪な響きが平原中に広がる。
「あっ…………あ……………」
「もう、せっかく死闘って奴を演出しようとしてるんだから、段取りは守ってもらえるかしら。ちょっとしたハプニングは良いスパイスになるけど、貴方のはノイズにしかならないわ」
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!!」
戦槌が地面に突き刺さり、数拍間をおいて、それを握っていた女戦士の両腕が草むらのうえに添えられた。
「よくもぉ!!」
アルテの怒声がミナトの耳を打つ。
「あら、貴方も脳筋なの。暑苦しいわね」
丘を駆け上がるアルテに対しアルベラがクイと指先を動かすと、地面から無数の悪魔が召喚され行く手を阻む。
「お仲間も返しておこうかいら。取れた部分も一緒にね」
アルベラは腕を失い、痛みに悶絶する女戦士を摘まみ上げると、無造作に放り投げる。
千切れた腕ごと強かに地面に叩きつけられた女戦士を最高位悪魔が下卑た笑みとともに取り囲む。
「どうしたの、早く腕をくっつけないと全滅するわよ。ほらっ、頑張って、もっとワタシを楽しませなさい」
「くそっ、離れて!!」
傷ついた仲間を救うべく、アルテが悪魔を切り伏せていくが、10が灰に変わる前に20が生み出され、緑の平原の一角が徐々に漆黒に埋め尽くされていく。
次々と無に帰される同胞の存在など気に止めることもなく、徐々に疲弊していく獲物を抵抗を舌の上で転がすように味わう姿は、正しく悪魔がなんたるかを示していた。
「早くっ治してあげて!!私一人じゃすぐに圧し潰される!!」
「お、おかしいんです!!神の奇跡が何者かに阻害されて、腕が繋がらなくて………あぁっ!!!」
喰いとめきれなかった悪魔達が、腕を繋げようと治癒魔法をかける女神官ににじり寄る。わざと距離を置き、ジリジリと嬲るように包囲を縮めていくその様子は、これから起こるであろう惨劇を容易に想起させた。
「治癒を止めちゃダメ!!もう、持ちこたえられなっ………」
後頭部くわえられた衝撃によりアルテの言葉が途切れる。兜が落ち、グラリと力なく立ち尽くす彼女に黒の波が覆いかぶさる。
剣を奪われ、鎧を脱がされるアルテを見て、女神官は顔を覆い、自身の周りに小さな結界を張り膝を抱える。
女戦士は最早時折小さく息をするだけで、その顔は土気色に変わり、命の灯が燃え尽きようとしているのは明らかだった。
戦いは終わった。ならば後に続くのは何か。
今のミナトにはその残酷な未来を想像することは出来なかった。
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