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異世界ハーレムは義務です~0からはじめる建国物語~  作者: 碧い月


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ゴブリンチャンピオン

「まず一つ」


 3方向から同時に迫りくる敵を前に、ミナトは自分自身を落ち着かせるように呟く。


(普通は囲まれれば退く。敵もそう思っているはずだ。なら、その油断を討つ)


 押し寄せるゴブリンの波に対し、ミナトは一人抗うかの如く前に踏み出す。

 一方的な狩りを楽しもうとしていたゴブリン達は、逃げ惑うはずの獲物の予想外の動きに硬直し、止まる仲間に巻き込まれるように一体のホブゴブリンが棒立ちになる。


「二つ!!」


 ミナトは自分よりも頭二つぶん大きなホブゴブリンに対し、無理に急所である首を狙うことなく、防具のない太ももを斬りつける。

 肉が裂ける感触が刀身を通して掌に伝わる。

 切断された大動脈から人と変わらぬ赤黒い血飛沫が吹き上がり、続けざまに2匹のゴブリンを両断する。


 太ももを斬りつけられたホブゴブリンは痛みにのたうちまわり、手にした棍棒を激情のまま振り回し、その感情の奔流は身近に控える何匹かのゴブリンの命を奪った。


 狼狽えるゴブリン達。

 しかし、ミナトは足を止めることは出来ない。捕まることが死を意味する状況下においては、走り続けることでスペース確保する事こそ、命を繋ぐ唯一の手段となる。


 呆気に取られていたゴブリン達だが、次第に目の前の小さな男が、怯え、命乞いをし、自分達を楽しませるだけの玩具でないことを知ると、これまでの遊びを捨てただ殺すためだけに後を追う。


 ミナトはそれを待っていたかのように、すぐさま腰袋から掌サイズの包みを取り出すと、逃げながら背後に中身を撒く。


「ゴァァッ!!」


 1匹のゴブリンから悲鳴があがり、ミナトを追いかけていた小集団が異変を察知し立ち止まる。

 地面には小さな撒菱まきびしが散乱し、その一つを踏んだ1匹は痛みに悶絶する。

 

 撒菱はミナトが好んで用いる道具の一つだ。長年の使用に伴い改良を重ねた撒菱の包みは、紐を引っ張り背後に投げるだけで広範囲に散布されるよう、工夫された作りになっている。

 包みに入った撒菱の量は僅か20程度であり、たまたま幸運の女神に見放された者が足を犠牲にする程度の効果しかないが、その不幸な一人になりたい者はいない。

 結果ゴブリンのような知能が高くない魔物にとっては、十分に有効な足止め手段となる。


 ミナトが息を整えると、撒菱を恐れ動きを止めたゴブリン達の体に矢が突き刺さる。


「援護するぜ!!」


 頭上から聞こえる声は、態勢を立て直した自警団のものだ。ゴブリン達の注意が飛んでくる矢と地面に撒かれた撒菱に割かれると、ミナトは隙を見て再度斬りこみ、2匹の命を刈り取った。


 無傷の敵は10数匹。

 数の上では未だ不利だが、まだミナトに疲れはなく、手傷もおっていない。一方で敵の士気は低下しており、手傷を負ったゴブリンには戦線に復帰しようする者はおらず、他のゴブリンも『誰かがあの生意気な子どもを倒したら村を襲おう』といった様子で、積極的に戦おうという意志は見られない。


 本来であれば好戦的であるはずのホブゴブリンも、徐々にミナトの容姿と実力のギャップに気づきつつあるのか、ゴブリンをけしかけようと脅すだけで、自ら撃って出ようという気概はない。


 ミナトが望んだ状況が完成しつつあったその刹那、茂みを奥から櫓に向かって黒い塊が投げられた。激しい衝突音が敵味方問わず多くの者の耳目を集め、ミナトも思わず頭上を見上げる。

 そこには、グシャグシャに折りたたまれ肉で出来たボールのようなったゴブリンの死体と、その肉の弾丸により命を失った自警団の男の死体があった。


「うわぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」


 その光景を目の当たりにした自警団から悲鳴が上がり、恐怖が周囲に伝播していく。


 そんな状況の中、ミナトは茂みから悠然と姿を現した一匹のゴブリンを睨みつけていた。

 ミナトの倍はあろうかという背丈。急所を冒険者から奪ったであろう分厚い金属鎧で覆い、手に鋲のついた長いこん棒を握る、異形なゴブリン。


「………ゴブリンチャンピオン!!」


 金等級を戴く冒険者とゴブリンの英雄の死闘が、いま始まろうとしていた。

面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!

基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。


ゴブリンとゴブリンチャンピオンの間には、私とボブサップくらいの力の差があります(多分)

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