盾として
ゴブリン。
この世界において最下級に位置する魔物であり、恐らくほとんど冒険者にとっては、その生涯において最も多く戦うことになる宿敵でもある。
身長は10歳程度の子どもと変わらず、人よりかは幾分身体能力が高いものの、体格差により戦闘経験のない一般人であっても容易に勝つことが出来る。町の酒場に行けば、自称ゴブリンスレイヤーの武勇伝が嫌と言うほど聞けるのも頷ける話だ。
一般人でも優位に立てるほどの体格差に、装備や戦闘技術による差が加わる冒険者であれば、なおさらゴブリン相手に勝利を収めることは容易い。
しかし、それはあくまで『一対一の戦いであれば』という注釈がつくことも、冒険者にとっては周知の事実である。
ゴブリンの恐ろしさは他種族を圧倒する繁殖力と、短期間であってもそれを維持し発展させることのできる歪んだ社会性にある。
他者から奪い、他種族の雌を孕ませ、同族であっても互いを駒としか考えず、しかし自らの弱さを知るが故に群れる。
無分別に数を増やし、喰えなければより多くを奪い、時には家畜を養い、強者を用心棒に雇う。
計画性の無さや、他者を尊ばない傲慢さ、数を恃むことで自らの弱さを忘れ、力を過信し、より強大な村や町を襲うという自己矛盾により、国家を形成するほどの規模に成長することは稀であるが、辺境の村々にとっては一番恐ろしい身近な敵と言える。
その浅慮が故に多くが長ずるより先に死を迎えるが、元来エルフと同じく精霊を祖とする種族であるため寿命は極めて長く、時を重ねることでホブゴブリンと呼ばれる別種とも思える体格を持つ魔物となっていく。
その中でも特に力を持つ者は『ゴブリンチャンピオン』『ゴブリンキング』と呼ばれ、オーガすら超える脅威として認識されている。
ミナトは息をひとつ吐き、背後に敵がいないことを確認してから、半円状に取り囲むゴブリンの陣容を見定める。
(ゴブリンが20近く、ホブゴブリンが3。騎兵も魔法詠唱者も上位種もいないのは幸運………だけど、この規模の群れで狼騎兵、ゴブリンメイジ、ゴブリンチャンピオン、トロールやオーガもいないのは不自然だ。先遣隊なのか、複数の村を同時に襲撃しているのか、それともボク達の王都の存在に気づいて………それはアルベラとデボラさんがいれば問題ないな。むしろ一番不味いのはボクだ、今は対峙している敵に集中しよう)
剣を振り、こびりついた血を拭う。
伝説上の騎士が用いたという名刀だけあり特殊な魔法が込められているのか、数匹のゴブリンを斬っても刃こぼれ一つなく、敵の貧弱な装備であればミナトの膂力であっても容易に防具ごと切断できるだろう。
(こいつ等の考えは単純明快。奪うことを楽しみ、殺すことを楽しみ、犯すことを楽しむ。弱いと思った者に強く、強いと思った者に弱い。見た目で判断し、例えそれが間違いであっても、すぐに思考を切り替えられない)
(小柄なボクは、ホブゴブリンを倒したことを目の当たりにしていても、あいつ等にとって与し易い敵のはず。だけど流石に半数を一瞬で殺せば、残りはより弱い獲物を求めて村に向かうだろう。かといって、ホブゴブリンを含めた20匹以上の敵を一瞬で全滅させるような強さはボクにはない………それなら取るべき手段はひとつだ)
ミナトは敵が広げた投網にかかるように、等間隔に弧を描くゴブリンの中心に踊り出る。
ゴブリン達の嘲るような笑み。
(包囲の中心に自ら飛び込む………奴らが嗤うのも分かる、戦い方を知らない愚かな行為。だからこそ侮る、ボクを殺すまでここから動かない。後衛も引き付けて、この村の盾として時間を稼ぐ)
「どうした、来ないのか!!子ども相手に怖いわけじゃないだろ!?」
わざと剣で天を指し、隙を作る。
ゴブリンは上位種でもない限り人の言葉を理解しない。しかし、弱者だと思っている相手に挑発されている事は理解できる。
(来た!!)
包囲が縮まり、側面のゴブリンが一番槍と言わんばかりにミナトに襲い掛かる。
遥か昔に冒険者から奪った物であろう錆びついた長剣が突き出されるが、重さのためか切っ先はどこまでも鈍い。
ミナトはその一撃を僅かな動きで躱すと、隙だらけの首元に剣を振り下ろし、切り伏せる。
すると、それを合図にするように、残りのゴブリン達が一斉にミナト目掛け突撃する。
ミナトの盾としての戦いが今始まろうとしていた。
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実際ゴブリンが身近にいたら怖いなんてもんじゃないですよね




