家を作ろう
「ミナト様、またまたまたまた新しい女性をお持ち帰りになられたのですね。素晴らしい夢の世界に一歩近づき喜色満面、ニヤつきが抑えられないほど御満悦なこと、心よりお慶び申し上げます」
ルーナと共に戻ってきた一行をアルシェが慇懃無礼な………と言うよりかは、やや無礼寄りな………つまるところ、ド直球で無礼な態度で出迎える。
「ただいま、アルシェ。ごめんね、待たせちゃって。それにしても、どうしたの。少し棘があるような………」
「少しではないわね」
「あ〜、ワンちゃんだ〜。私はルーナだよ〜、よろしくね〜」
ルーナは冷ややかな視線を向けるアルシェに物怖じすることなく距離を詰めると、無遠慮に青くモフモフとした耳を撫でまわす。
「私はアルシェと申します、以後お見知りおきを。さて、ミナト様が念願のハーレム作りに精を出されている最中、取り残された私は一人虚しく荷物の整理をしておりました。その時の私の姿は、それはそれは悲しく哀れなものだったかと思いますが、神が惨めな子犬に慈悲をかけてくださったのか、面白い物を発見いたしました」
アルシェはまとわりつくルーナを押し退けると、馬車から一枚の大きな布地を取り出し、その一部を広げて見せた。
「これは………布?」
「んっ、見れば分かる」
「おおっ、こりゃ天幕じゃねえか!!」
「デボラ様のお見込みの通りです。こちらにシャルロッテ様からの書状がございますので、お目通しください」
ミナトは手紙を受け取り、封蝋を解く。すると、シャルロッテが付けていた香水と同じ、爽やかな匂いが広がる。
「読み上げるね」
『オーホッホッホッ!!王都に舞う一羽の白鳥こと、貴方様のシャルロッテですわ〜!!
この手紙をご覧になっていると言う事は、天幕の存在にお気づきになられたのですね!?』
「高笑いを文章に起こす人間、初めて見たわ」
「それを読むミナトも大概だけどな」
「い、良いじゃないですかっ!!続けますよ」
『先日お話しした通り、シンギフ王国内には逃げ遅れた民衆もいるはずですわ。
そのような民草が、ミナト様の威光に引き寄せられ王都に集まった場合のため、急場を凌ぐための天幕をお贈りいたしましたの。快適とまでは言えませんが、軍が野営で使っている物ですので、丈夫さは折り紙付きですわ。
またお守り代わりといたしまして、我が家の家紋が入った旗もお貸しいたしますので、ネズミ避けにでも使って頂けましたら幸いですの。それでは、ご健勝をお祈りいたしますわ。
未来のシンギフ王妃シャルロッテより愛を込めて』
「ボクに会う前から、そこまで考えてくれてたんだ………ありがとう、シャルロッテ」
ビリッ
ミナトの手から手紙が奪い取られ、2つに引き裂かれる。
「何やってるの、リオ!?」
「んっ、反射。身体が勝手に動いた。後悔はしてない」
「手紙は後から私が念入りに燃やしておくとして、確認したところ、天幕を組み立てるための材木やロープ、留め具に簡単な図面もついておりました。当座を凌ぐには十分かと」
「燃やしちゃダメだからね!?でも、アルシェの言う通り、これなら暫く家の代わりに使えるよ」
「流石王族ともなるとサービスが行き届いてんな。この一番デケエのが指揮官用の天幕で、こっちが兵卒用か」
天幕は分厚く目が細かい重厚感のある布地で仕立てられており、その表面には雨を防ぐためか光沢を伴った特殊な加工がなされている。
兵卒用の物は素材のままの白地だが、指揮官用の天幕には金糸で刺繍がほどこされた豪奢な赤地の縁取りがなされており、仮住まいであることを考慮すれば、王の座所としても十分に機能するように思われた。
「デボラさん、天幕の設営について知っているんですか?」
「おうよ、冒険者稼業を始める前は、傭兵で飯を食ってた時期もあるからな。まっ、雇い主のポンコツ貴族があーだこーだ五月蝿えから、ぶん殴ったらお尋ね者になっちまったんだがな」
デボラは酒のつまみに武勇伝を語るように、自らの危うい過去を笑い飛ばした。
「全く、この国の倫理観はどうなってるのよ………まぁ、脱走兵の告白はさておき、せっかく貰ったわけだし、有効活用させて貰いましょう。しばらくは天幕暮らしね」
「では、作業に取り掛かりましょう」
「私はお昼寝してて良い〜?」
「ダメです、全部終わるまでは寝られないと思ってください」
「きびしいよ〜。でも、お昼寝のために頑張る〜」
目指すべき場所が視野に収まり、一同の表情は一様に輝きを帯びていた。
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古代ローマ式の野営地で一泊してみたいです




