水龍
「うわぁっ!!早く、逃げないとっ!!」
ミナトはリオの手を引き全力で駆けると、数百メートル先の巨石に隠れ事の推移を見守る。
「なんだぁ、何も起こらねえじゃねえか。失敗か?」
ゴゴゴゴゴゴゴッ………
「何か変な音が聞こえるのですが………」
大地を揺るがす轟音。
ミナトが耳を塞いだその刹那、平らだった平原の一画が突如異常なほど隆起し、次の瞬間、地面が飲み込まれたのかと思うほど一気に反転し陥没すると、ポッカリと空いた穴の中心部から透明な液体が天高く舞い上がる。
「テッテレー、大成功」
満足気な表情を浮かべるリオの視界は、とめどなく吹き出す数十メートルの水柱により遮られる。
頭上からは水瓶をひっくり返したかのような大量の地下水が降り注ぎ、晴れ渡った空には虹がかかった。
「アルベラ様、先程の発言を訂正させて頂きます。十分に距離を取られたのは、慧眼でいらっしゃいました」
「でしょ?」
一行は水飛沫を避けさらに数百メートル後退し、いつ終わるともしれない自然が作り上げる噴水ショーを見守る。
隕石が衝突したかのような巨大なクレーターがみるみるうちに水で満たされていき、激しい水流が土壁を削ることで即席の湖は瞬きをする毎に巨大化していく。
「リオ、ありがとう。これで水の心配は無くなったよ。………ところで、ひとつ質問なんだけど、これいつ止まるの??」
「んっ、止まない雨はない」
「大洪水になるまで降り続ける雨はあるけどね。どうせ止める算段なんてないんでしょ?勢いが収まるまで待つしかないわ。ワタシ達に出来ることは、せいぜい平原一帯が全部湖にならない事を祈るだけね。あと、いざという時のために、馬車は動かせるようしておいた方がいいかも。国書から食料から馬まで、貰った物を全部水没させたとか、お姫様に言えないでしょ」
「う、うんっ、アルシェ、デボラさん、手伝って貰えますか!?リオとアルベラはココで様子を見てて!!………………ゴメン、アルベラ、もし水が本当にボクの家辺りまで来そうだったら、手段は何でもいいから一旦水を止めて貰えるかな」
「手段は何でもいいのね、了解よ。でも、あんまりあの子達の前で大魔法を使うのも不味いし、そうならない事を願うわ」
およそ1時間後ミナト達が退避準備を終え戻ってくると、そこには膝を抱え座り込み、眼前に広がる光景をボーッと見つめるリオとアルベラの姿があった。
イドホリボルグにより生み出された即席の人造湖は、視界を埋め尽くさんばかりに広がっており、先ほどまで吹き上げられた泥により濁っていた水も今は澄み、底が見通せるほどになっている。
「おかえりなさい。アルシェは?」
「荷物を見ててもらうことにしたよ、いざとなったら丘に退避して貰わないとだし。それに『石の散弾が飛びかうような場所には、当たっても大丈夫な人だけで行ってください』って………」
「賢明な判断ね。とりあえず勢いは収まったから、これ以上無秩序に広がることは無さそうね。放っておくと土壌を侵食しそうだから、土留めはしないといけないけど」
「……これはもう湖………だよね」
「ああ、立派な湖だな」
「王都の中心部から程近いところに湖を作るとは中々奇抜な都市計画よね。常識に囚われない発想だわ」
「んっ、あんまり褒められると恥ずかしい」
「一応常識って概念は覚えておいた方がいいわよ」
「と、とりあえず、これで水不足問題は解決したかな」
ミナトは自分を納得させるように一度大きく頷くと、同意を求めるように言った。
「王都の水瓶を作ると同時に、水着回の伏線も用意する匠の技。『ドキッ!!美少女だらけの水泳大会、(首とか)ポロリもあるよッ!!』の開催を楽しみにしてて欲しい」
「括弧の中が不穏すぎるんだけど!!」
「まぁ、メチャクチャだけどよ、そのぶん神話っぽいエピソードにはなったんじゃねえか?槍で小突いたら湖になったなんて与太話、最高胡散臭くてと良い思うぜ」
「んっ、事実は小説より奇なう」
「後は自分の神域を侵されたとか言って、地主神として祀られてる水龍なんかが因縁をつけてくるのを解決するってのが、神話でのお決まりのパターンなんだけど………んっ?なにあれ??」
アルベラが湖面を指差すと、湖底からプクプクと泡が湧き上がってくる。
「地中に閉じ込められた空気が上がってきてるのかな………なんか大きくなってきてるような………………」
泡は瞬く間に増えていき、湖底から何者かの影が水を切り裂くように浮上した。細く長く滑らかなその影は、まさしく伝説上の龍の姿そのものであった。
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異世界のインフラはメチャクチャ




