神話を作ろう
「しっかし、仕方ねえとはいえ、王都とは思えない立地だよなぁ」
会議を終え、狭い幌の中から解き放たれたデボラは、成人男性より二回りは大きな身体を更に大きく伸ばしながら、独り言のように言った。
「確かに近くに海も川もない場所が王都ってのは珍しいわね。平野が広がってるってのは拡張性の意味では利点とも言えるけど、お世辞にも防衛に向いてるともいえないし。まっ、元から王都にするために選んだ土地じゃないから、その辺りは考えても仕方ないわ。とりあえずはココを根拠地にして、もっと利便性の良い場所を見つけたら遷都するくらいの気持ちでいいんじゃない?」
アルベラの言う通り周辺には海はおろか川すらなく、丘の他には防衛に資する地形も存在しない。水の手は今のところ井戸がひとつあるだけであり、およそ一般的に想起される王都の立地とはかけ離れているのは確かであった。
「んっ、そもそもミナトはどうしてこんな辺鄙な場所にハブられてたのか、それが問題」
「私も不思議でした。ミナト様ならカラムーンに居を構えることも出来たはず。私の部屋に居候したいと仰って頂ければ、考えなくもなかったですし………。まさか本当にハブられて………?」
「ハブられてるとか人聞きが悪いなぁ。この辺りは元々魔物が多い土地だったから、数十年前にこの辺りを開拓して防衛拠点にしようって話があったらしいんだよ」
「だから、ある程度平らに整地されてるのね」
そういった前提条件を加味して周囲を見渡すと、地面には凹凸が少なく、開拓村の中心部として想定されていただろう場所には、大地に深く根をおろすような大木も存在しない。
決して王都と呼べるほどの広さはないが、小さな村であればそのまま収まる程度の土地は整備されている。
「だいぶ話は進んでいたみたいだね。でも、カロを中心とした国境沿いの防衛網が強化される中でジェベル王国内の魔物もだいぶ数が減って、ここの他にも何カ所かあった防衛拠点の開拓の話は全て白紙になったんだって。だけど、知っての通り少なくなったとは言っても街道を離れると魔物はまだまだうようよいるし、特にゴブリンなんかの繁殖力の強い種族は定期的に根拠地を叩いておかないと、すぐに小さな村なら全滅させられる位の数まで増えちゃうからね。魔物討伐の依頼を受けた冒険者が休める拠点として、小屋が幾つも建てられたんだ。そのうち使用頻度が低かったここを、ギルドの紹介で格安で譲ってもらって家にしてたんだけど………」
ミナトは灰になった我が家を前に嘆息をもらす。
「なるほど、そんな土地だから気前良くくれたわけね。カロを含めて国境沿いの大都市が壊滅したいま、旨味の少ない僻地の割譲を条件に、態よく国境警備に回された感じかしら」
「だからこそ地元の有力貴族やら、よくわかんねえ村の長老やらに余計なチャチャを入れられず、好き勝手出来るってメリットもあるけどな。自分好みの国を作れるなんざ、数百年生きてても経験できるような事じゃねえ。ここはいっちょ気合を入れて、この世に二つとないド派手な王都にしてやろうぜ!!」
デボラは腕まくりをし、常人の太腿ほどはあろうかという腕に力こぶを作る。
「まったく、すぐ話の規模を大きくするの止めてもらえるかしら。さっきも言った通り、今日やることは最低限の居住スペースと水の確保だけよ。だいたい家だって井戸だって『作りましょう、はい出来た』ってなるような物じゃないでしょ。やれることから地道にいくわよ」
「………………足りない」
アルベラの言葉を受けそれぞれが作業に移ろうとした時、リオが短く呟いた。
「リオ、足りないって何のこと?」
「リオ様の脳みその事ですか?」
「んっ、ヘイトスピーチ」
「また意味不明な言葉を使う。それで何が足りないのよ」
「神話」
リオが当然と言わんばかりに応え、親指をグッと立てるお決まりのポーズを取る。
アルシェとデボラはその言葉とポーズが意味するところを図りかねている様子だったが、ミナトとアルベラはこれから起こるであろう未来を想像し、互いに顔を見合わせた。
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丁寧な口調からの唐突なディスって良いですよね




