死闘の果てに
夕方にあと2話ほど投稿する予定です
どれほど進んだだろう。
いや、前進したというのは勘違いで、自分の肉体はとっくの昔に動くのをやめているのかもしれない。
ミナトは頭を振ると、返り血のこびりついたショートソードの刃を裾で拭い、自らの足がまだ存在することを確かめるように大きく一歩前に踏み出した。
肺に溜まっていた淀んだ空気は不安とともに吐き出され、瞳に生気が戻る。
「よう、生きていたか、ミナト。どうやら生き残りは俺とお前だけらしいな。まったく、最後まで厄介事を押しつけられるなんざ、冒険者なんてなるもんじゃねえよ」
ミナトは振り返り声の主を見ると、そこには右わき腹を半ば失った男が、剣を引きずりながらアルベラが座する丘陵を睨んでいる。ミスリルの認識票は切り伏せた敵勢の残滓により赤黒く染まり、柄のないブロードソードの刃はところどころ欠け、最早野兎を裂けるほどの鋭さも持ち合わせてはいない。
次の瞬間、前方を覆っていた血煙がすっと消え去り、ミナトの瞳が頬杖を突きながら薄笑いを浮かべる少女の姿を捉えた。
「アルベラッ!!」
「待てっ!!」
駆けだそうとするミナトの肩に分厚い掌が置かれ、グイと引っ張られる。不意に引き寄せられ力なく尻餅をつくミナトの鼻先を巨大な戦斧が掠め、轟音とともに地面に突き刺さった。
「どうやら嬢ちゃんに会う前に面接があるみたいだぜ、悪魔にも過保護な奴はいるもんだねえ」
地面に大きな影が生まれ、ミナトは反射的に後ろに飛びのく。ゴウッっという衝突音と共に5メートルほどの漆黒の肌を持つ悪魔が大地に降り立ち、身の丈の過半ほどはある戦斧を軽々と担ぎ上げた。
「ごめんなさい。せっかくここまで駆けつけてくれたんだから、直接お相手をしてあげたいんだけど、部下が暇を持て余しているみたいなの。悪いけど、その子を説得してから私の手に口づけしに来てくれるかしら」
甘く、美しく、どこか人を苛立たせる声が、まるで耳元で囁くように鼓膜をくすぐる。
「どんな仕掛けか知らないが、美人の声で耳をこそぐられるのは悪くない気分だねえ。せっかくだ、お邪魔虫を片付けてから、首だけにして囁いてもらうとするか。いくぞ!!」
先ほどまで歩くのもやっとだった男が、虎狼の如き俊敏さで土を蹴り上げ、得物を悪魔に叩き込む。
「やったっ!!」
「お見事………………な~んてね」
アルベラがわざとらしく指をパチリと鳴らすと、男の体からボトリと腕が落ち、そして首がずるりと体の上を転がっていった。
「えっ………そ、そんな………」
「ひとりぼっちになっちゃったみたいね。寂しそうな瞳、構って欲しいの?」
「あ…………あぁぁぁああああああっ!!!!!!!!!!!!」
ミナトは半狂乱になりながら悪魔に向かい走り、ショートソードを天高く振り上げた。
「クッ!!」
ミナトが掲げた切っ先は、振り下ろされることはなかった。アルベラの元に辿り着くまで数十もの敵と交戦した疲労は、まだ年若い一人の少年から剣を握るほどの握力すら奪い去り、血塗られた刀身は中空に放り出された。
「あら、とっても可愛いお客さんね。殺さず捉えなさい、楽しめそうだわ。………おっと、可愛いだけじゃなくて往生際の悪さも素敵よ」
アルベラは空から降ってきた剣を二本の指を受け止めると、無造作にミナトに向かい放り投げた。
「せめて一矢でも報いるって心意気かしら。好きよ、そういうの、人間臭くって。悪魔にはない感性だもの、新鮮で、刺激的」
アルベラは、悪魔に組み伏せられ土を舐めるように地面に這いつくばるミナトの前まで歩み出て、ミナトの顎をぐいと掴み、顔をまじまじと見つめた。
「本当に可愛いわね。お世辞じゃなく、これまでにあったどんな人間より綺麗で、生命力に溢れているわ。見てるだけで滾ってきちゃう。自己紹介が遅くなったわね。私は六大魔公が一柱、鮮血公『金色のアルベラ』。よろしくね」
血塗られた平原に咲く穏やかな微笑みは、目の前の少女が人とは異なる精神構造を持った得体の知れない化け物であることを、何よりも雄弁に語っていた。
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