あの日の約束
「起きてくださいまし、ミナト様!!あぁ、どうしてこんな事に………」
吹雪が轟音と共に吹き荒れる中、即席の雪の壁だけを頼りに身を寄せ合う一行の中で、シャルロッテは体温を失っていくミナトの手を握りながら、涙を零した。
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遡ること一日。
「温泉旅行?でございますか」
シャルロッテの声が裏返る。
シンギフ王国に来て早三日。王宮や自領での生活から一変した日常に徐々に慣れ始めていたが、時折飛び交う聞いた事のない単語での突拍子もない提案は、いまだ慣れることができなかった。
「うんっ、いわゆる湯治ってやつかな。ほらっ、短い間に色んなことがあって疲労も溜まってるでしょ。魔法で治ったとはいえ、怪我もしたし。だからシャルロッテの歓迎も兼ねてどうかなって」
そんなシャルロッテの心労を察したのか、ミナトがこの世界の人間にも分かりやすいよう、噛み砕いて説明する。
「んっ、簡単に言うとハーレム要素の補充。ミナトを囲んで裸の付き合い。とりあえず温泉シーンで湯煙に隠れて身体のラインがチラチラ見えてればOKみたいな所ある。姫系エロ要員も増えたし、キャッキャウフフと体を洗いあって、ポイントを稼ぐべき」
「ミナト様がハーレムで、裸で洗い合う!?温泉旅行とは、そんな卑猥な奇祭なのですか!!」
「いや、違うから安心して!?もちろんボクは一人で入るから。あくまでボクはついてくだけで、女性陣同士で仲を深められたらなって。ボク達も一緒にいることは多いけど、普段はどうしても仕事の話が多くなりがちだからね」
「なるほど、職務の重圧から一時離れ、大自然に囲まれリラックスした中で互いに親睦を深め合う。温泉旅行とはそういった催しなのですね」
(ううっ、リオといるとついつい元の世界の言葉を使っちゃうけど、不味かったな。この世界じゃ、王族だってレジャー目的の旅なんて一般的じゃないんだった。気をつけないと)
そんなミナトの杞憂を吹き飛ばすように、シャルロッテは花が咲いたような笑みを浮かべる。
「ワタクシの為にありがとうございます。お言葉に甘えて、ご一緒させて頂きますわ」
「良かった。唐突だけど出発は明日でいいかな。デボラさんが案内してくれるんだけど、天候が安定しているうちに行こうって」
「かしこまりました、では早速旅装の用意を致します」
シャルロッテが天幕を出ると、ミナトは額に滲む汗を拭う。
「見事な話術。濃厚エロシーン満載の温泉回という真の目的を隠して、獲物を誘い出すことに成功」
「違うからね!?親交を深めるのが目的だから!!………ほらっ、シャルロッテだけじゃなくて、皆も緊張続きだったでしょ。心も体もリフレッシュ出来たらなって。ボクも旅行初めてだし、行ってみたかったから………」
「ミートゥー」
「リオも旅行初めてなんだ」
コクコクと高速で頷くリオに対し、ミナトはふと元の世界での事を聞こうと考えたが、口には出さなかった。
(そうだ、ボクのことを知ってるってことは………)
ミナトは転院を繰り返しながら終えることとなった短い生涯の中から、幾つもの病院の情景を思い返す。
その何処かにリオが居たのだとしたら………忘れたい辛い過去を無理矢理掘り起こすことは酷だろう。
「今回は雪山だけど、リオはいつか行ってみたい場所はある?」
(ボク達にはこの世界を自由に歩き回れる身体がある。自由がある。時間は幾らでもあるんだから)
リオは少し首を捻ったあと、不意に何かを思い出したように大きく眉をあげ、ポツリと呟く。
「桜………桜が見たい………」
ミナトがこれまで聞いたことのない、とても幼い声色だった。
「分かった、約束だよ。二人でお花見に行こう。まだこの世界で桜を見たことはないけど、見つかるまで旅をすれば良いんだから」
「………うん、行く。約束」
リオは一瞬言葉に詰まり、けれどもすぐにいつもの表情に戻り、ミナトの小指に小指を絡め、千切れんばかりにぶんぶんと振った。
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