遠き日の終わりに
「シャルロッテ様だ……。シャルロッテ様が、敵陣に……!!」
北部軍の一角で、悲鳴にも似た叫びが上がった。
「馬鹿、何を言い出す! 利敵行為で斬られたいのか!」
「いいから見ろ! あれを、あそこを見ろよ!!」
林の奥から現れた、金の髪を持つ少女。
かつて高貴さの象徴であった白いドレスを泥と血に汚し、赤子のように覚束ない足取りで、彼女はただ一点を見据えて歩いている。
その絶望的なほどに孤高な姿を視認した北部軍の将兵たちは、困惑と、そして拭いがたい焦燥感に包まれながら、その名を呼び続けた。
「シャルロッテが捉えられただと!?誰が騒いでいる、敵の間諜か!!見つけ次第、首を撥ねよ!!」
ルグレイス公が、全軍に響き渡る怒声で下知を下す。
しかし、その叱咤は長くは続かなかった。
年老いた彼の瞳に映り込んだのは、従者もなく、ただ独りでエルフリーデの元へと向かう、最愛の孫娘の姿だった。
「シャルロッテ、何を………!!馬を引け!!今すぐ手勢を率い、丘の上の軍勢を蹴散らすのだ!!シャルロッテを救い出せ!!」
老公の命に、近臣たちは顔を見合わせた。
冷徹な戦略家であったはずの指揮官。その彼が下したあまりに無謀な突撃命令。
それは明白な破綻であり、破滅への招待状に他ならなかった。
「公よ、見るのだ」
憤怒に震える老公に、ジグムンド三世が静かに、しかし断固とした声で呼びかける。
「私に命令するつもりか!!その首、今すぐ叩き落としてもよいのだぞ!!」
「命はとうに預けている。だが、これだけは言わせていただこう。シャルロッテは自身の意志で、自らの足で王となったエルフリーデの元へ進んでいるのだ。主と仰いだ者の答えを、信じてはくれまいか」
ルグレイス公は奥歯を噛み締め、血が滲むほど拳を握り、鋭い眼光を丘の上の王へと向ける。
「ほぅ、行方を眩ませていたかと思えば………逃げずにここまで来たことは褒めてやろう」
若き宰相クライスが、エルフリーデを護る近衛兵たちを下がらせる。
「最早俺の声すら届いてはいないようだな。これが最後となるやもしれぬ。元第一王女として、内乱の旗頭として………後世の歴史家に余計な餌を与え不名誉な憶測を残さぬよう、その末期の言葉の全てを一兵卒に至るまで聞こえるようにしてやれ」
シャルロッテはエルフリーデの前まで歩み寄り、顔を上げた。
髪は血と泥に塗れ、白い肌は無数の傷に覆われている。しかし、彼女は自らの足で辿り着き、王となった妹と対峙した。
戦場を埋め尽くす数万の兵士たちは、己が武器を手にしていることすら忘れ、ただ二人の間で交わされる言葉を、そしてジェベルの行く末を見守っている。
「シャルロッテ。王家に反旗を翻した貴方が、ここに現れた意味を理解しているわね」
エルフリーデの問いに、シャルロッテは風に倒れそうな体を必死に支えながら、一度だけ深く頷いた。
そしてシャルロッテは、エルフリーデに対し深く、深く跪いた。
完璧なる臣下の礼。
それは共に笑い、共に泣き、時に喧嘩をし、それでも相手から目を逸らすことの出来なかった、かけがえのない姉妹としての日々の終焉を意味していた。
ジェベルを二分した内乱が、今、終わりを告げようとしていた。
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