真紅の足跡
いつまで走ればいいのだろう。
どこまで進めばいいのだろう。
このまま、ぷつりと糸が切れるように死ねたなら、どれほど楽だろうか。
だけれど、お母様はそんな逃避の果てに命を絶ったわけじゃない。
今なら、わかる気がする。
怖くても、間違っていても、どれほど無意味に思えても。たとえ自分の選んだ道で誰かが不幸になるのだとしても、為政者であるならばひとつの道を選び取り、進まなければならないのだ。
バキリ、と嫌な音がした。
道なき道を駆け続けた若駒が、小さな窪みに足を取られて前のめりに崩れる。放り出されたシャルロッテの身体は宙を舞い、容赦なく硬い地面に叩きつけられた。
「グッ!!! ………かはっ………!!!」
息ができない。
頭が割れそうなほどに痛い。
このまま永遠に倒れていたい。
………だけど。
シャルロッテはふらふらと立ち上がると、横転して苦痛に身悶えする若駒のもとへ這い寄り、震える手でその頭を撫でた。
「ありがとう、頑張ってくれて。今のワタクシには、こんなことしか出来ないけれど………。ごめんね、これで我慢して。きっと、戻ってくるから」
ミナトから託された二本のポーション。
その一本を馬の口に含ませ、もう一本を自ら飲み干す。
神経を鉋で削るような激痛が僅かに和らぐ。
額から流れる血が視界を真っ赤に染める。
拭う力すら惜しむように、ただ一歩、また一歩と足を引き摺り、木々の隙間から漏れる光の方へと進み続ける。
聞こえる。
歓声、悲鳴、そして怒号。
不意に視界を遮っていた森が消え去り、風にたなびく無数の旗が目に飛び込んできた。
二頭獅子、そしてシャルロッテ自身が誰よりも愛してきた黄バラの紋章。
そうか………エルフリーデとクライス兄様は、選んだんだ。
自分たちの意志で、明日に繋がる道を。
ジェベルの未来を指し示す道を。
ならワタクシも行かないと。
この足で。自分の力で。伝えないと。
「な、何者だ!? ………シャルロッテ………様!!」
周囲が俄かに騒ぎ出す。
きっとワタクシがみっともない格好をしているから驚いているのだろう。
「とお………して………」
ごめんなさい、今は説明している時間がないから、道を開けて。
たくさん人が集まってる、あそこにエルフリーデがいるのね。
エルフリーデ………!!
辺りを焼き払うような峻烈な赤髪を目にし、シャルロッテは叫んだ。
しかし、その言葉は血の塊と共に口から零れ落ち、誰にも届くことはない。
おかしいな、何で地面が目の前にあるの?
エルフリーデはどこ??
胸がまるで松明を飲み込んだみたいに熱い。
ごめんなさい、少しだけ休んでから立つから待っていて。きっと行くから。
「助けは不要です」
よく通る綺麗な声。
エルフリーデの声だ。
「しかし………!!」
耳元からも声がする。
助け起こそうとしてくれてるのね。
ありがとう。
「先王は自らの足でルグレイス公の前まで進みました。その者が何かを成したいというのであれば、自らの意志で、私の前に立たなければなりません」
空の上から降ってくるような透き通った、だけど凛とした威厳に満ちた声色。
そうか、本当にエルフリーデは国王になったんだ。
エルフリーデ、話したいことがあるの。
たくさんたくさん話したいことが。
だけど貴方は国王で私は裏切り者。
二人きりでお喋りなんて、もう夢でしかないよね。
だから少しだけ恥ずかしいけど、皆の前で言うね。
シャルロッテはまともに動かない腕を杖代わりに上半身を起こし、まるで赤子が初めて見る世界に引き寄せられるかのように、ゆっくりと立ち上がる。
その歩みは這うよりも遅く、大地に真紅の足跡を描き、けれども一歩一歩エルフリーデのもとへと近づく。
幾度か大きくふらつき、それでも決して倒れることなく、シャルロッテは自らの足で王の元へと辿り着いた。
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