奉戴の戦火
戦場に幾多の悲鳴と怒号が交錯する。
強き者が殺し、弱き者が死ぬ。
弱き者が殺し、強き者が死ぬ。
富みし者が死に、貧しき者もまた死ぬ。
死神の鎌は平等であった。
まるで生命に貴賤がないことを彼一人の手で証明せんとするかのように、無数の命を奪っていく。
「注進!!シャルロッテ様が何者かの手により崖壁より救出された模様!!難を逃れられたシャルロッテ様を奉戴すべく、直ちに救援部隊を投入いたします!!」
伝令の金切り声は幕舎を突き抜け、近隣の兵卒にまで届いた。
やがてシャルロッテ救出の報は前線を野火の如く駆け巡り、地鳴りのような歓声が沸き起こる。
「叛徒共の攻勢が止まりません!!このままでは戦線が崩れるのも時間の問題、早く次なる下知を!!」
狂気に誘われ、自らの命の価値を忘れたかの如く突撃を繰り返す北部兵。対する南部兵は恐慌に陥り、至る所で壊走が始まる。
荷車で組まれた簡易防壁は散々に打ち壊され、今や命を惜しまぬ北部兵の足場と化し、そこから間断なく矢の嵐が降り注いでいた。
「前線の兵へ命じよ。戦線を維持せよ、一歩であろうと持ち場より退く者は、自らの命だけでなく家族の命をも敗北の対価として支払うこととなるとな。生き残るためには目の前の敵を殺すのみ。死兵となりて、報国をなせ」
「かしこまりました。………我々はいかがいたしますか」
「一度王都まで退く。敵も伏兵を恐れ無理な追撃には及ぶまい。これは敗北ではない、援軍と合流し敵に倍する兵力で決戦により雌雄を決するのだ」
「ここを突破されれば王都までは平坦な街道が続くばかり。叛徒共の勢いを止められる城塞も砦もありません。それでもよろしいのですか」
「なにも難しく考える必要などない。北部の猪共を我らが領地に誘いこむのだ。退路を断てば袋の鼠。宰相殿の命で戦線に赴いたが、そもそも地の利を捨て開戦に打って出たこと自体が誤りなのだ。王都にはいまだ万余の兵が残っている。勝利は庭になる果実をもぐより容易い」
参謀を務める貴族は、震える指先を隠すようにマントを翻した指揮官の言葉が、多分な嘘を含んでいることに気づいていた。
敵が帝国兵なのであれば、あるいは彼の言葉は真実であったかもしれない。
しかし、相手は同じジェベル王国の民であり、旗頭となっているのは元第一王女であるシャルロッテその人なのだ。
国軍の旗色が悪くなれば、反乱は内乱へと、国軍は南部軍へと変わり、互いに奉ずる主のもとにいつ終わるともしれぬ争いが続くだろう。
そうなれば、最早シャルロッテにもエルフリーデにも止める手立てはない。
貴族はただ自らの権益を確保し僅かでも多く敵から奪うために、兵たちは自身と家族の安全、そして僅かばかりの戦利品のため戦い続けることになる。
「委細承知いたしました。お言葉通りにいたします。ただ一点、進言をお聞き入れください。逆賊シャルロッテに決死隊をお差し向け下さい。叛徒共に奪われる前に、我らの手で殺すしか道はありません」
「崖より助け出したのは北部貴族の手の者だという話だ。既に本陣奥深くに退いているやもしれぬ。もし未だ戦場をさまよっているとしても、この混沌とした戦況の中どう探しだす。万に一つも成功するまい」
「しかし、如何なる犠牲を払おうとも今ここで殺さねば厄災となりましょう。御決断を」
重苦しい沈黙が幕舎に広がる。
「………良かろう、許可しよう。但し………騒がしいな、何事か!!まさか最早敵兵がここまで!?」
薄い天幕に守られていた貴族達が急いで表に出る。
彼らが目にしたものは、丘陵地帯に満ちる見覚えのある旗であった。
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