空に落ちる
「おらよっ!!これで終わりだ!!」
グシャリと鉄が鉄を潰す固い音が響き渡る。
デボラによる圧倒的な攻勢を前に、数十からなる敵勢はその全てが二度と動くことのない金属の塊となり、地面には無数の青い染みが広がっている。
「ヴァーンズィン!!惚れ惚れするような戦いっぷりじゃない。後はミナト達を救い出すだけ………と言いたいところだけど、新手のお出ましみたいだ」
エランの言葉に誘われるように、森の奥から新たな敵影が生まれる。
「ったく、物語の筋ってやつを分かってねえ奴等だな。人がカッコつけて終わりだって言い切ったら、空気読んで帰りやがれってんだ。おい、英雄さんよぉ、まだやれるか?」
「もちろん。英雄ってやつは危機になればなるほど、力を発揮するって相場が決まってるじゃない。だけど、心配すべきはこっちじゃないかもねえ」
二人は敵から視線を切らさないよう注意を払いながら、頭上のミナト達を見上げる。
「テオ、ミナト達まで影を伸ばせるかい」
「僕の力だけでは無理です………でも、敵の描いた魔法陣を利用すれば、ひょっとしたら届くかもしれません」
「グート。可能性があるならやるべき事は一つじゃない。ここは俺に任せて、ミナト達を頼むよ」
「分かりました、やってみます!!」
テオは地面に描かれた禍々しい魔法陣の中央に立つ。
専門外の魔術については基礎的な知識しか持ち合わせていないテオにとっても、それが一般的な魔法詠唱者が用いる儀式魔法ではないことは理解できた。
何らかの代償を必要とする禁術の類ではないか………テオは脳裏に浮かぶ言いしれぬ不安を責任感で押し込めると、記憶と一致する古代文字や紋様だけを抜粋し、改めてこれが彼の故郷でいう拡張陣の一種であることを確かめる。
(遠い、幾ら何でもあそこまで影を届かせるのは不可能だ。それなら、地面に影で着地点を作って受け止めるのは?………ううん、ダメだ。崖は大きく湾曲してる。そのまま落下すれば崖壁にぶつかって命はない。でも、僕なんかが本当に出来るわけが………)
テオは弱気に流れる自らを叱咤するように、掌で思いきり両頬を叩く。
「エラン様が僕に頼ってくれた………大丈夫、きっと届く………届かせてみせる!!」
テオは目を瞑り、印を結ぶ。
(拡張陣の本質は質量の転換。自分の影を細く長く、けれど丈夫な蜘蛛の糸のように変質させれば………)
「………黒影拡張陣『糸』!!」
陽の光を受け地面に映るテオの影がアメーバの如くうねり、やがて細く長く真っ直ぐな糸となり、遥かに上空で熟柿の如く危うげに槍に掴まるミナト達の元へと伸びていく。
糸は崖に張り付きながら、その姿を次々に変え、遂にはエランがミナトへと託した魔槍ヌゥンヌニゥルへと辿り着く。
「影?………テオ!?」
意志を持つように動く黒影にミナトは疲弊しきった脳を奮い起こし、足元へと視線を落とす。
眼下には豆粒ほどの人影があり、そこから蔦が這うように一本の影が伸びている。
不意に影の先端が人の口の形となり、大きく縦に開く。
「ミナト様、僕を信じて手を離してください!!長時間は影を維持できそうにはありません、早くっ!!」
ミナトは腕に抱きかかえているシャルロッテを強く引き寄せ、ジッと見つめる。
「………大丈夫です、ミナト様を信じます」
シャルロッテの言葉にミナトはコクリと小さく頷くと、槍から手を離し、その身を重力に委ねた。
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