王女襲来
「あぁ!!燃えてる………ボクの、ボクが自分で建てた『ノイエ・サンスーシ』が!!」
ミナトが変わり果てた我が家を前に、絶望に打ちひしがれ地面に膝をつく。
「んっ、結構痛いネーミングセンス、流石ミナト」
炎は煌々と燃え盛り、辺りを赤く染め上げる。
2人はどうする事も出来ず、そして同時に目の前で起こっている現実をどう理解すればいいかもわからず、ただ灰になっていく家を呆然と眺めるしかなかった。
「お尋ねします、シンギフ王国のミナト陛下でいらっしゃいますか?」
「えっ!?あっ、はい、そうですけど………貴方は?」
半ば魂が抜けかけたミナトの意識は、一人の女性により現実に引き戻された。
褐色の肌に翡翠のような深い緑の瞳、そしてミナトと同じ黒く長い豊かな髪を持つ二十歳ほどの女性は、およそ外出には不向きであろう白を基調とした糊のきいたメイド服を身に纏っている。
女性はミナトの問いかけを、人差し指を唇にあて封じると、誰かに合図をするように右手を高く挙げ空に円を描くようにゆっくりと振った。
テーテレ、テッテッテッテー!!
タラリラタラリラタラリラ……………
草深い平原に鳴り響く荘厳な音楽。
金管楽器の華やかで明るい音色が聞く者の精神を高揚させ、弦楽器の包み込むような豊かな響きが安心感をもたらす。
ミナト達が唖然としていると突如炎が二つに割れ、長く美しい金の髪を持つ少女が高笑いと共に現れた。
「オーッホッホッホッホッ!!炎の中からジェベル王国の美しき不死鳥、第一王女シャルロッテの登場ですわ〜!!!」
空を焦がすような業火を受け、純白のシルクに金糸が編み込まれた豪奢なドレスがほのかに朱を帯び、熱風にたなびく金髪の先には無数の火の粉が飛びかう。
「なんか出てきた!!!!っていうか、火っ!!!!火が燃え移ってるよ、ドレスに!!!!」
「ホホホッ、焦ることはありませんわ、『王女は燃えても高笑い』と諺にもありますでしょう!?白鳥が水面下で必死に足を動かす姿を見せないように、これしきの事で動じることは王族としての誇りが許しませんの!!熱っつぅいっ!!!!!」
「すごい本音でてるよ!!やっぱり熱いんだよね!?早く消して!!!痩せ我慢とかそういう次元じゃないから!!!!」
炎を包まれながらも余裕の態度を崩さない態の王女を他所に、お付きの楽団員が総出で消火を図る。
「………んっ、負けられない戦いが、ここにはある」
その様子を見ていたリオはそう呟くと、なお収まる気配のない業火のなかに身を投じようと歩み出る。
「妙な対抗意識燃やさなくていいから!!新ネタの発表会じゃないからね!?これ以上事態をややこしくしないで!!」
「オーッホッホッホッホッ!!廃屋を有効活用して暖を取っていたところ、ビックリするほどの大火災になってちょっぴり引いておりましたが、発想を逆転させて粋な演出に変えてみせたワタクシの天賦の才ここに極まれり、ですわ!!」
シャルロッテと名乗る少女は頬に手の甲を当て、古き良き悪役令嬢さながらの切れの良い笑い声をあげる。
「シャルロッテ様、ご覧くださいこのお二方の珍妙な動物でも見るかのような表情を。良くも悪くも2,3個まとめて度肝を抜いた事は間違いございません………恐らく悪い方にですが」
先ほどミナトに声をかけた黒髪の美女は、熱風により乱れた王女の髪とドレスを正しながら、まるでこれが日常であると言わんばかりに、澄ました顔で後片付けをしていく。
「あの………」
ミナトが恐る恐る声をかけると、少女は威儀を正し、口を開いた。
「お初にお目にかかります、私はジェベル王国全権特使、王都に咲く一凛の黄バラこと第一王女シャルロッテですわ!!いきなりの可憐な姫君来訪に、緊張のあまり声も出ないかと存じますが、遠慮は要りませんことよ。なんでも仰ってください。好きな殿方とスリーサイズ以外でしたら、幾らでもお答えしますの。オーッホッホッホッホッ!!」
「後ろで燃えてる家、ボクのなんだけど………」
ミナトの悲壮な面持ちに、シャルロッテとお付きの者たちは、背後で消し炭となりつつある『ノイエ・サンスーシ』だったものを見つめた。
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シャルロッテのお付きの者にはヒーラーがいるので、ちょっとくらい髪が燃えてもすぐ元通りになります(多分)




