乙女の秘め事
「英雄さんよぉ。ジェベル王国じゃ、いつから騎士団に巨人を採用するようになったんだ?」
「申し訳ないが世情には疎くてねえ。亜人への差別意識が強いジェベルも変わった………ってわけじゃなさそうじゃない。周りに控えてる全身鎧のお仲間も、あんまり大っぴらに中身を見せられないから姿を隠してるんだろうしねえ」
ミナトが必死に槍にしがみついている崖の直下に、行く手を遮るように大小様々な兵士達が居並ぶ。
その兵士達も到着して間もないのか、崖下に奇妙な魔法陣を書き加え『何か』の準備をしている最中であった。
「魔法にはあんまり詳しくないんだが、見るからに良からぬことを企んでるって雰囲気だねえ。テオ、あれが何かわかるかい」
「断言は出来ませんが、僕が使う拡張陣と類似の効果を持ってると思います」
「拡張陣?」
「空間の伸長を司る魔法です。用途は主に射出、高速移動、その応用としての急激な空気の膨張
………簡単に言うと爆発です」
「おうおう、そりゃあ剣呑至極、どの使い方するにしてもヤル気満々じゃねえか。ちょいとばかし手荒な真似をしてでも止めねえとな。しかし、仮にもジェベルの旗を立ててお仕事に勤しんでる奴等を、他国のオレがぶん殴るのはちと不味いかもしれねえが………」
「大丈夫、英雄エランがまるっと責任を取らせて貰おう。好きなだけ暴れてくれ」
デボラのわざとらしい自問自答にエランが苦笑混じりに応じる。
「おっしゃ、それなら話は早え!!片っ端からぶっ潰してやるぜ!!」
デボラが大戦斧を担ぎ、一際目立つ巨人に向かい全速力で突撃する。
数十の敵を前にして、一切の駆け引きのない蛮勇とも言える行動に、悠然と待ち構えていた巨人の反応が僅かに遅れる。
エランの倍はあろうかという巨人兵は、稚拙とすら評することの出来るだろうデボラの突進を咎めるべく、人の身の丈ほどの大剣を振り下ろす。
質量をそのまま鋳型で固めたかのような強烈無比な一撃。
しかし、デボラは自身を超える巨躯から繰り出された圧倒的な暴力を前に、回避でも迎撃でもなく受け止めるという選択を取った。
ゴゥ
途轍もない力の衝突が生み出す轟音にデボラは白い歯を見せる。
大戦斧という壁に遮られた巨刃は、それ以上進むことが出来ず、少しずつ真横に押し退けられる。
「図体の割に力比べは苦手のようだなぁ!!」
デボラは強引に膂力で得物を捻り剣先を逸らすと、前のめりになった巨人兵の脇腹に跳ね上げた大戦斧を叩きこむ。
「ゴアッ!!」
人とは思えぬくぐもった咆哮と共に、青い血が胸甲から零れ落ちる。
常人ならば耐えがたい苦痛………だが巨人兵は半ば断ち切られた肋骨の激痛に怯むことなく、受け流された大剣を再び引き寄せ、刃で包み込むようにがら空きになったデボラの背を襲わんとする。
「ちいっ、浅えか!?」
デボラは引き抜くことの出来ない大戦斧を手放し、前蹴りで距離を取ろうと試みる。
しかし、大地深く根を張る大木の如き巨人兵は容易に揺らぐことはなく、死の刃は手を伸ばせば届く位置にまで迫っていた。
「クソがっ!!」
「黒影拡張陣『展』」
影が凄まじい速度でデボラ目掛け伸び、波乗りをするかのように黒い奔流に身を任せるエランが、巨人兵の脳天に槍を突き立てた。
「シャッハマッテ………ふぅ、危ないところだったじゃない」
エランが頭部に深々と突き刺さった槍を数度捻り地面に降り立つと、同時に巨人兵の両腕がどさりと落ちる。
「誰が危なかったって?」
デボラの手には青い血が滴る鍔のないショートソードが握られている。
「それは………なるほど、あの大戦斧の柄が剣になるとはねえ。秘密の多い女は怖いじゃない」
「乙女の秘め事ってやつだ。見たからにゃ、最後まで付き合えよ」
デボラとエランは地面に倒れた巨人兵を一瞥することなく、残る敵に視線を向けた。
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