二つの影
「うおっ!!………くそっ、痛ってえなぁ。何が元の場所に戻すだ、あの詐欺師野郎!!」
デボラはひとしきり文句を口にし、強かに地面に打ちつけた尻を自らの巨大な掌でパシリと叩く。
フェルリオールにより創造された異世界は既に影も形もなく、転移する前の世界に帰ってきたことは直感的に理解できたが、先ほどまでいた断崖とは違う景色に何処に飛ばされたのか思考を巡らせる。
「ちっ、崖下に出ちまったみてえだな。ライノスと露出狂とは別れちまったか。あいつ等がいりゃあ魔法やら魔具やらでミナトを見つけられたかもしれねえが、こりゃ期待薄だな。ブラブラしてる不良兵士でも適当に締めあげて案内させるのも悪くねえが………それよりかは人のことをジロジロと見てくる、変態野郎のケツを蹴り上げるほうが先決か。覗き見たぁ趣味が悪いな、出てこいよ」
デボラが周囲の茂みを睨みつけると、音もなく全身鎧の兵士達が姿を現す。
その数10程度だろうか。
叩きつけられる強烈な殺気に対し、動じるわけでも応じるわけでもない不可思議な気配に、歴戦の女戦士は手にした大戦斧を担ぎ上げる。
「オレはシンギフ王国の突撃隊長、デボラだ。まぁ、肩書は勝手に名乗ってるだけだがな。敵じゃねえなら回れ右して帰りやがれ。覗き見の罪くらいは見逃してやる。まっ、それでもやるってんなら相手になんぜ」
挑発を受けてもなお微動だにしない兵士に、デボラは眉間に皺を寄せる。
「後から外交問題がどうとか言い出すんじゃねえぞ!!」
人の倍近い巨体が強く大地を蹴り、宙を舞う。
狙いをつけられた兵士は大盾を構え迫りくる大戦斧を受け止めようと試みるが、竜鱗すら砕くと言われる大上段の一撃は盾を縦に真っ二つに切り裂き、全身鎧ごと兵士を弾き飛ばす。
派手に後方に吹き飛び大木に叩きつけられた兵士は、数秒後には何事もなかったかのようにスッと立ち上がり、再び大盾を構える。
「本当に人間かぁ、テメエ。竜人かと思うくれえにはタフな奴なら何人も知ってんが、命の危機だってのに息ひとつ切らさねえのはどういうこった。まるで呼吸をする必要がないみてえだなあ、おい」
問いに対し一切反応することなく、兵士達は全員で一体の生き物であるかの如く、不自然なほどにピタリと息の合った動きでデボラを包囲する。
不意にデボラの鼓膜を馬蹄の響きが揺らし、黒い影が世界を丸飲みせんと伸びる。
「黒影投射陣『動』!!」
影に触れた兵達はボーリングのピンのように散り散りになり、その間隙を縫って二頭の駿馬がデボラに向かい駆ける。
「乗るんだ!!」
「おうよ!!」
デボラは伸ばされたエランの腕を丁重に無視し、空馬に跨る。
デボラを背に乗せた馬は、大戦斧も含めれば全身鎧の兵を二人同時に乗せるほどの重さに大きくよろめくが、なんとか体勢を立て直し獣道を疾駆する。
「あのさぁ、ああいう場面では差し伸べられた手をガッシリ掴むものだって習わなかったかい?」
「悪いな、仮にも貴族のお前さんと違って育ちが良くねえもんでよ。実利優先ってことで許してくれや。で、あれはなんだ?何処に向かってんだ??」
「あんな気味の悪い友人はいないから分からないねえ。とにかく今は崖の中腹で耐えてるミナトを助けるのが最優先だ、力を貸して欲しいじゃない」
「ミナトのとこに向かう道を化け物共が抑えてんのか!?そりゃ最高にきな臭えな!!断られようが、望みの10倍はたっぷり貸し付けてやるぜ!!」
デボラは崖を見上げる。
遥か視線の先には力なく槍に掴まるミナトと、抱き留められているシャルロッテの影が揺らめいていた。
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