王都炎上
「はぁ、本当に誤解解けたかなぁ………」
何度目かのため息が広闊な平原に溶けていく。
「んっ、誤解じゃない、事実」
「そうね、最初はバカみたいな目標だと思ってたけど、ミナトが思いのほか乗り気みたいだし、ワタシも頑張っちゃおうかしら」
ミナトはリオとアルベラに交互に視線を送り、再び深いため息をついた。
昨日の騒動から一夜明け、一行は馬車でシンギフ王国の王都たるミナトの家に向かっていた。
ミナトの夢『目指せ酒池肉林!!やるぜボク絶倫!!全世界全種族全制覇、どすけべハーレム王国の建国だウェイ!!』を知ったアルシェは、動揺するミナトに永久凍土から切り出された氷の刃のような冷たい視線を送り続け、一方でデボラはそんな状況をツマミにするが如く一層大量の酒を胃に流し込んだが、最終的には一応誤解も解け、和解がなったという事になっている。
現在二人はカラムーンに留まっているが、それはギルドに関する残務処理の為であり、目処がつき次第合流する手筈となっていた。
「ミナト、気にする必要ない、あの年頃の女子は潔癖。ハーレムと潔癖、やや相性が悪いだけ」
「やや悪いで済んでる?それに貴方も似たような年齢でしょ」
「んっ、私は正妻だから耐えられた。副妻だったら耐えられなかった」
「副妻って何よ。貴方が正妻だとすると私は愛妾?まっ、ワタシとしては正妻なんていう堅苦しい立場より、愛人関係の方が刺激的で好きだけど。ねっ、ミナト」
「はぁ~~~~」
ミナトは二人の会話が聞こえていないのか、再び深いため息で応じる。
「重症ね」
御者の心境を反映するように、馬車を引く馬の歩みも遅くなっていく。
「アルシェだったかしら。ミナトに自分の荷物を預けたんでしょ?信頼してなきゃ、そんなことお願いしないわ。きっと妬いてるのよ、ミナトがワタシみたいな美女を侍らせてるから。あんまり心配しすぎると、かえって怒らせちゃうんじゃない?」
「んっ、多分嫉妬の対象は私。正妻の辛さ」
二人の言葉を元気づけるためのものと理解したのか、ミナトは「ありがとう」とだけ答え、背筋をピンと伸ばした。
二人が言う通り、馬車にはアルシェの持ち物が幾つか積まれている。
馬車自体は昔デボラが冒険の戦利品を持ち帰るために購入した物であり、ギルド長となってからは半ば共有物となっていたが、シンギフ王国に移住するにあたり最低一カ月分の酒が必要と言うことで、馬車一杯にエールを積み、持ち帰ることとなったのだ。
「そろそろジェベル王国からの特使が来るはずだし、落ち込んでる場合じゃないよね」
「それなんだけど、ワタシは少しの間、野暮用で外に出るわ」
「えっ、どうして?」
「ふふっ、心配してくれるの?大丈夫、召喚した悪魔達を回収するだけよ」
「んっ、私が全部処理したはず」
「この前に呼び出したのはあの場で全部消滅したけど、その前にも幾つか撒いておいたのよ。本当なら離れていても命令出来るんだけど、どっかの誰かさんに角を斬られてから調子が悪いのよね。それにこの前ワタシを間近で見た誰かが来ると、流石に不味いでしょ」
「封印されてる現場を見せるつもりだから、誤魔化せるとは思いたいけど………勘の良いひと相手だとバレるかも」
「まっ、角もないし、服装も髪型も違うから余程の事がない限り大丈夫だと思うけど、念には念をって言うものね………じゃ、この辺りで一回お別れ。また後からね、ミナト」
言うや否やアルベラは馬車から飛び降り、ミナトに向け妖艶な笑みを向けると、霧となり一瞬でその場から消え去った。
「一人で行かせて大丈夫?」
「大丈夫だよ………信じてみることにしたんだ、そうしないと国なんて治められないと思うから」
「んっ、流石ミナト、ちょっとネジが外れてる」
「褒められてるのかなぁ、それ」
ミナトが苦笑いを浮かべると、リオは突然目を細め、王都の方角をジッと見つめる。
「どうしたの?」
「んっ、ミナトの家の辺りに異変」
「………急ごう!!」
馬に鞭を入れ、馬車が速度をあげる。木製の車輪がガタガタと音を立て、エールを詰め込んだ樽がぶつかり合い、零れ落ちた雫が幌を芳醇な香りで満たしていく。
馬車を飛ばすこと数十分。
ミナトが目にした光景………それは無惨に打ち壊された我が家と黒煙をあげながら周囲を焼き尽くす深紅の業火であった。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
エールってどんな味がするんですかね?ほぼビール?一度飲んでみたいです




