ミナトの夢
「行こう、皆のところへ」
ミナトが手を差し出し、アルシェがその手を取る。
ギルドに戻ると、先程までの騒ぎが嘘だったかのような、いつも通りの日常が二人を迎えた。
「んっ、待ってた」
「もう、会話が通じない酔っ払いに絡まれて大変だったんだから。この埋め合わせはミナトに直接してもらわないとね」
「………ミナト様、この御二方はどちら様でしょうか?」
「ああ、紹介が遅れたね。新しい国を作るために力になってくれるリオとアルベラだよ………というか、この2人がいたから、こんな状況になってるんだけどさ」
ミナトはアルシェから向けられる凄まじい眼光に気づく事なく、爽やかな笑顔を浮かべる。
「………あぁ、そういう事ですか、なるほどなるほどなるほどなるほど、私以外にも色々とお世話をしてくれる方がいらっしゃるんですね。しかも、とても美人でお若く肌も露わな女性が2人も………2人も。そうですよね、知ってました、ミナト様大層おモテになられますものね、はいはいはいはい、知っておりましたとも、もちろん」
アルシェはミナトに届くか届かない程度の小さな声で、魔法を高速詠唱するかの如く呟く。
「ミナトの夢のため、皆で頑張る」
リオがそう声をかけると、アルシェはハッと我に返り、赤面した。
「ミナト様の夢………そうですね、誰もが平等に暮らせる、誰も拒むことのない国。そんな理想の国を作るためにミナト様は同じ志を持つ方々を募っているのに、私は下らない私情にとらわれて………申し訳ありません、見苦しい姿をお見せしました。私も一意専心ミナト様の夢のために力を尽くします」
「誰もが平等に暮らせる、誰も拒むことのない国か…………なるほどな。さっきミナトが恥ずかしがってたのはそういう事かよ。まっ、確かに口にするには青臭え、どデカすぎる夢だ、自分で言ってて恥ずかしくなっちまう気持ちも分かるぜ………だけどよ、いいじゃねえか。どうせ叶えるなら、最高の夢じゃねえとつまらねえからな!!ミナトの夢だ、オレも乗るぜ!!」
「んっ、ちょっと違う」
「………違うとは?」
唐突な否定にアルシェが訝し気な表情を浮かべ、やや詰問するような口調でリオに問いかえす。
「ミナトの夢」
「誰もが平等に暮らせる、誰も拒むことのない国………確かにミナト様が仰った言葉そのままではないかと思いますが、ミナト様の真意からは外れていないかと………」
「ほら、リオ、今はそういう話はいいんじゃないかな?今日はもう遅くなっちゃったし、アルシェも仕事が溜まってるだろうから………そうだ、アルシェ、ボクも手伝うよ、何でも言って」
僅かに流れる不穏な空気を感じ取り、ミナトが口早に捲し立て事態の収束を図るが、リオはその真意に気づいていないのか、もしくは気づいていてなお止める気がないのか、再び口を開く。
「アルシェは獣人とのハーフ?」
「………はい、仰る通りです」
「デボラは巨人とのハーフ?」
「ああ、そうだぜ」
「………2分の1は四捨五入すれば1。つまり、犬型獣人と巨人はコンプリート。んっ、1日で2種族ゲット、ミナトの夢に向かって順調な滑り出し」
「申し訳ございません、リオ様、何のお話をされているのか理解が追いつかないのですが」
「ミナトの夢『目指せ酒池肉林!!やるぜボク絶倫!!全世界全種族全制覇、どすけべハーレム王国の建国だウェイ!!』の進捗状況確認。デボラもアルシェも合格。二人とも全種族コンプのため頑張る」
「…………はい!?いま何と仰りましたか!!??」
「んっ、ミナトの夢が『目指せ酒池肉林!!やるぜボク絶倫!!全世界全種族全制覇、どすけべハーレム王国の建国だウェイ!!』だと言った。ちなみに、『ウェイ!!』部分に体内の全パリピ成分を込めるのがポイント。早速アルシェも復唱する」
「『目指せ酒池肉林!!やるぜボク絶倫!!全世界全種族全制覇、どすけべハーレム王国の建国だウェイ!!』でございますか?」
「んっ、覚えが早くて助かる」
「そうね、『目指せ酒池肉林!!やるぜボク絶倫!!全世界全種族全制覇、どすけべハーレム王国の建国だウェイ!!』はミナトの大切な夢だものね。ワタシ達4人で協力して叶えましょう」
…………時が止まり、静寂が場を支配する。
「ははっ、今日はもう遅いから、その話はまた明日にでも………」
「ミナト様、ひとつ訂正させて頂きます。冒険者は『ミナト様を除いて全員クズ』だと言いましたが、たった今『冒険者は全員クズ』な事が判明しましたので、お詫びして訂正いたします。それでは、もう二度とお会いすることはないかと思いますが、どうぞ酒池肉林のハーレムを心ゆくまで楽しんでくださいっ!!」
「アルシェ、誤解だからっ!!ボクの本当の夢はアルシェ寄りだから!!」
「いや、そこはハーレム完全否定しなさいよ」
「んっ、ミナトもようやく本当の夢に気づいた」
「ハハハハハッ!!!!いいじゃねえか、ミナトも男だ、ハーレムの一つや二つ、作りたいよなっ!!上等だ!!誰もが平等で、誰もがミナトに惚れてる、最高に面白え国を作ろうじゃねえか!!ハハハハハッ!!!!」
頬を膨らませ背を向けるアルシェをミナトが宥め、デボラの馬鹿笑いがギルドを突き破りカラムーン中に響き渡る。二人分の想いを加え、シンギフ王国は新たな一歩を踏み出そうとしていた。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
理想の国を作る、ハーレムも作る、両方やらなくちゃならないってのが、「王様」のつらいところ




