密かな告白
「てめぇ、本気か!?自分がやろうとしてることの意味を分かってんのか!!犬っころのメスガキだからって、俺が甘い顔をすると思ってるなら大間違いだぜ!!顔は覚えたんだ、てめえが何処に逃げようが地獄の底まで追いかけ回して、死んだ方がマシな思いをさせてやるぞ!!」
男はアルシェに向かい手負いの獣の如き声で恫喝する。
「アルシェ、大丈夫、ボクが絶対に守るよ。何度だって」
立ち尽くすアルシェにミナトが優しく語りかけると、アルシェは強張った頬を僅かに緩め、男が暴れれば顔がぶつかる距離まで近づき、男の目を真正面から見据えた。
「この顔を死ぬまで覚えておくんですね、貴方の男性器を潰す『混ざり者』の顔です。復讐したいならいつでもいらしてください、カラムーン流の御もてなしでお返しします!!」
ゴスッ
アルシェはそう啖呵を切ると跳ねるように立ち上がり、つま先で思いっきり股間を蹴り上げた。
グシャリという何かが潰れたような感触が足先から駆け上り、アルシェは心の海底に沈殿した澱を吐き出すように小さく息をつく。
「んがぁっ!!!!!!!!!!」
つい数秒前まで凄んでいた男の顔が一気に青ざめ、声にならない悲鳴が響く。
「やるじゃねえか、アルシェ!!」
デボラがまな板のように大きな手を激しく叩くと、冒険者達は一斉に歓声をあげ、口々にアルシェの勇気を称える。
「この顔も覚えておけ。もし、もう一度アルシェを襲うようなことがあれば、今度は命で償ってもらう」
ミナトはうずくまる男を引き起こすように顎を蹴り上げ、無防備になった股間を踏みつけると、男は縛られた手が千切れんばかりに苦痛に悶えた。
「あら、痛そうだけど、まだ男としての機能は残ってそうね。せっかく男として終わる記念日だもの、無骨な冒険者に最後を奪われるより、とびっきりの美女が良いでしょ?ふふっ、貴方は運が良かったわね。優しいワタシが終わらせて、あ・げ・る」
アルベラは、つま先を動かし二つの弾力のある塊の存在を確かめ、万力で締め上げるように少しづつ圧力を加え、男が泡を吹き始めたところで一気に踏み抜く。
ゴリッという男であれば誰もが怖気立つような音が響き、何人かの冒険者はそっと股間を抑えた。
禿げあがった男は最早苦痛を声に変換することすら出来なくなったのか、洗剤をかけられた虫のようにバタバタと身をよじり、床に赤黒い染みを広げていく。
「じゃ、残りのもチャチャと済ませちまうか」
デボラの合図を皮切りに、待ってましたとばかりに冒険者達が男達に金的をお見舞いしていく。幾つかの絶叫がカラムーンの夜空に虚しく轟き、数分もすると4人のうち声を上げることが出来る者は誰もいなくなっていた。
「ミナト、アルシェ、後は任せときな。こいつ等は都市長に話をつけて、適当に牢にでもぶちこんどくからよ。まっ、ちょいとばかし事情を聞かれるかも知れねえが、酔ってたから覚えてねえって言やぁいいだろ」
デボラが目配せをすると、ミナトはアルシェを連れて裏口からギルドの外に出た。
「なんか凄い空間だったね。ボクの知らない所でいつもあんな事が起こってたなんて、知らなかったよ」
「同感です。でも最高にスッキリしました」
アルシェがたまらず笑いだすと、ミナトもつられて吹き出した。
「怖かったです、凄く。でも、ミナト様がいたから、怖くなかったです………あれ、言ってることが支離滅裂ですね」
「大丈夫、ボクも同じだから」
「………ミナト様」
アルシェが不意に真面目な表情に戻り背筋を伸ばすと、ミナトも外骨格になったかのように緊張気味に視線を受け止める。
「私は獣人と只人の『混ざり者』です。只人の父は獣人の母から逃げ、母は村に残るために私を捨てました。浮浪児としてカラムーンの裏路地で物乞いをし、先代のギルド長に拾われやっと屋根の下で眠ることが出来ました。それから、ギルドで給仕として働くようになって、多くの冒険者の方と話すようになって、デボラ様やミナト様と会って………少しずつですが、私も自分がこの世界に居ていいんだと思えるようになりました」
ミナトはただ黙ってアルシェの想いに耳を傾ける。
「でも、どれだけ幸せになっても、私は捨て子で『混ざり者』です。私はこの劣等感から逃れる事は出来ません。捨てられ、阻害され、遠ざけられ、蔑まれ、見下され、苦しみ、悲しみ、そしていつしかそれを悔しいとも思わず受け入れてしまった私を、忘れることは出来ません」
アルシェの瞳からとめどなく涙が溢れ、頬を伝う。
しかし、ミナトは話を止めるわけでも、アルシェを抱きしめるわけでもなく、次の言葉を待った。
「私はきっと生涯拭い去ることが出来ないこの劣等感と共に生きていきます。ですが、この想いがあるから………こんな口が悪いだけの何も取り柄のない私を見捨てないでいてくれた、手を差し伸べてくれた、救ってくれた、そんな皆さんを心から信頼できるのだと思います………………………………ミナト様を心から愛しているのだと思います」
アルシェが最後に付け加えた一言は、風のざわめきよりも密やかであり、ミナトに届く前に冷たい夜の空気に消えていった。
「だから、悲しみも喜びも全部詰まったこの気持ちは捨てられません。そして、いつか…………いつか、もし私に子どもが産まれて、私のような劣等感を覚えることなく生きられる世界が作れるのなら、命を投げ打ってでも戦いたい、そう思っています」
アルシェは顔をあげ、自ら涙を拭う。
「ミナト様、私をミナト様の国で働かせてください。私に何が出来るかは分かりません。それでも、ミナト様の夢のため………私の夢のために何かしたいんです」
ミナトは優しく微笑むと、首を大きく縦に振った。
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前半と後半の温度差が凄いことになりました




