けじめ
「ミナト、すまねぇ!!この通りだ、許してくれっ!!飲んでもねえし、酔ってもねえんだ!!」
「いや、飲んでますし、酔ってますよね!!そこは嘘つく必要なくないですか!?でも、今回の件はデボラさんに責任は全くないです。アルシェもボクも無事でしたし、頭を上げてください」
小さく丸まるデボラの巨体を前に、謝罪されている立場であるミナトの方が、あたふたと慌てふためく。
ミナトにとっては、一連の騒動を知りえないデボラの謝罪にただただ困惑するしかなかったが、盗み聞きをしていたギルドの面々は一様にばつが悪い面持ちで、何かとミナトに対し優しく接しようとするため、それがかえって薄気味悪さを生んでいた。
「しかし、ミナトがそんな大立ち回りをしてたのね、見たかったわ」
「ミートゥー」
ギルド全体が浮き足立つなか、アルベラとリオは微塵も悪びれることなく言い放つ。
「あんまりカッコいい戦闘じゃなかったから、人に見せるのは恥ずかしいかな。アルシェがいなかったら危なかったし………」
「それでも4人も悪党をひっ捕えたのは大手柄だぜ。で、後はこいつ等をどう処分するかなんだが」
デボラは縛り上げられた男達をギロリと睨みつける。
「おいおい、勘違いがあったみてえだが、俺等は犯罪なんかしちゃいねえぜ。獣人の………いや、ありゃ人との『混ざり者』か。ともかく犬っころの嬢ちゃんが俺等相手に商売したいっていうんで、買ってやろうと思っただけだ」
「よくもそんな嘘を!!アルシェがそんな事するわけないだろ!!」
「おいおい、獣人、しかも『混ざり者』のメスと金等級の冒険者の証言どっちが信頼できると思うんだ。勘違いは誰にだってある。今ならそこのガキがやった事だって水に流してやっていい。治療代くらいは貰わねえと割に合わねえがな。だいたい、俺が本気ならこんなチビに遅れを取るわけねえだろ。それが何よりの証拠だ」
「このっ………」
ミナトの言葉をデボラが遮り、男達の前に歩み出る。
「こいつ等のやった事はゴミ以下だが、こう抗弁されると裁判やら何やらで、時間も手間も無限に取られちまう。例えこっちが正しかろうがな。だから程々の所で手打ちをするってのが穏当だ」
「そんなっ!?こいつ等を見逃せば、また犠牲者が出るんですよ!!」
「黙れガキ!!………流石はギルド長さんだ、よく分かってるぜ。お前が豚箱にぶち込まれないための懸命な判断ってやつだな」
禿げ上がった男の癇に障る高笑いが響き渡るが、男達を取り囲む冒険者達はニヤリと怪しい微笑みを浮かべる。
「とは言ってもよ、けじめは必要だよな………だからよ、カラムーン流の簡易裁判と行こうじゃねえか。ちょいと刺激が強いこともあって今までミナトには見せてなかったが、今回は当事者だ。参加する権利は十分なほどあるぜ」
デボラの『けじめ』という言葉にギルドが俄かに活気づく。
「裁判だと?ままごとでも始める気か?」
「その通り、ちょっとしたままごと遊びだ、少しだけ過激な。ルールは簡単。今からオレ達全員で順番にお前達の金玉を蹴り上げる。潰れたら罪を償ったって事でお前達の勝ち、潰れなかったら運が良かったって事でお前達の勝ち。勝ちの景品は………そうだな、一杯くらい奢ってやるよ、飲む元気があるならな」
「メチャクチャじゃねえか、ふざけんじゃねぇぞ!!
「メチャクチャはお互い様だろ?無法者同士、自由を謳歌しようじゃねえか。お前達は女を襲う、オレ達はお前達を狩る、平等ってやつだ」
「………俺はベスティア公からも仕事を任されてる立場だ。この意味が分かるだろ?」
男は脅迫めいた口調で低く呟く。ジェベル王国で隠然たる力を有する大貴族の名に、冒険者達に動揺が広がる………かに見えた。
「おお、分かるね、大いに分かる!!間抜けな命乞いで場を盛り上げてくれようってんだろ?感謝感激大感動だぜ!!おいっ、お前ら、一番槍を任せろって奴はいるか!?」
千鳥足の冒険者達が我先へと前に出る。
その歩みはたどたどしく、唇から零れる吐息はエールの色がついていそうなほど酒臭いが、いかに有力者な後ろ盾があろうと卑劣な罪を犯した男達への恐れを抱く者は一人としていない。
「最初は私にやらせて貰えますか?」
細く高くか弱い、けれど芯のある少女の声が冒険者達の歩みを止める。
ギルド中から集まった視線の先には、瞳に怒りを宿したアルシェの姿があった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
想像するだけで痛いけじめ




